FUJII / Blog

放送、通信、防災を経て官民連携を考えるひと。

BoT(Broadcast of Things)の時代へ

だいぶ間が空いてしまいました。新放送サービスi-dioの立ち上げに関わり、送信設備の開発からコンテンツプロバイダの開拓まで、慌ただしく動いています。放送業界とウェブ業界を8年間行き来してきましたが、両方混ぜこぜにやるサービスを本気で自分で作ることになったのは、なんの因果なのか…。

 

http://www.i-dio.jp

 

さて、i-dioは「移動受信向け地上基幹放送」に分類される放送で、テレビ、ラジオしかなかった放送業界に新しく生まれたカテゴリです。ISDB-TsbによるIPデータキャスト放送をVHF-Low帯で提供するソフト・ハード分離型のブロック別放送、ということになりますが、ほとんどの方には何を言っているのか全く分からないと思います。私も全容の把握に難儀しました。

 

いまのところ、デジタルラジオに似たサービスを提供しているのでわかりにくいのですが、その本質は、IoT機器向けのデータキャスト放送を安価に行う、下り回線専門のネットワークオペレーションを売りにする会社、というのが適切なところです。たとえば気象データを農業センサーに提供する。たとえば災害情報をスマートハウスに提供して防災に役立てる。そんな用途があります。

 

サービスごとに設計レベルから考えられる放送。そんなありえないほど自由な世界は、要するに物理層からソフトウエアレベルまでの知識を必要とする難儀な世界で、日々自分の能力の欠如を痛感していますが、なんとかやっています。

 

近況は、また今度。

Pontaフリーケアプログラムってどうよ

ロイヤリティマーケティングから「Pontaフリーケアプログラム」の無料保障を贈呈します、というレターが届き、仕事柄どういうデータマイニングをして送付先を選定したのか興味が湧いたので、ちょっと調べてみた。

Pontaフリーケアプログラムとはなにか

チューリッヒ保険会社を引受人とする無料3年間の団体保険。『交通事故等で入院時30000円を一時金を受け取れる』と書いてあるが、よく引受条件を読むと、「5日以上の入院」「交通事故、駅構内の事故、車両火災」に限られる。通勤中なら労災になるし、運転中なら自動車保険があるし、鉄道が火災なんて起こしたら鉄道会社の補償があるはずなので、この保険を受取って「よかったー」となるシーンはあまり思いつかない。

誰に送ってるのか

Twitterで検索した感じだと、たぶんPonta会員全員に送っているわけではない。もしや毎日ローソンストアで晩御飯を買っているので、食べているもので健康状態を推定して送ってきているのでは!と思ったけど、これ交通事故保険なので、そもそも加入申込書に健康状態を記載する欄自体がない。(もしあったら私は入院歴があるのでそもそも加入できない)たぶん利用金額ベースで抽出してるだけですね。

同様の保険の案内は、楽天KCとかマルイとか、年会費無料のクレジットカード会社が提携してカード付帯サービスの一環かのように送っているパターンが多い模様。最近旅行保険が付帯されているクレジットカードが減っている気がするし*1、確かになんとなくいいもののように見えるのかもしれない。
ただ、カード会社がこのサービスを提携して提供する最大のメリットは「月額500円の追加補償」プランがあるからのような気がしていて、テンプレで使いまわしているらしい申込書には、追加プラン用にでかでかとクレカの番号を書く欄がある。この手数料収入が提携するカード会社側の最大の目当てなのかも。Pontaのようにクレカ機能のないカードのイシュアーがこういうサービスを積極的に提案するメリットは何なんだろうと改めて不思議に思ったけど、保険代理店として三菱商事インシュアランスが挟まっているようなので、そこの手数料収益が目的の様子。さすが商社。


いずれにせよ、追加補償プラン(入院日額5500円+賠償責任補償最高1億円)は保険料が割高だし、私は会社が広告業のおつきあい的なアレでいろんな団体保険をかけているので入ることはないのですが、カード会社のいろんな会員情報ビジネスは、ますます進化しているなぁと思ったのでした。

*1:私は旅行保険にいちいち入る習慣がないので、支払いに使うことを条件に保険が付帯されるクレカで支払いをして旅行に行くことが多いのでこれはけっこう困っています。ゴールドカードにはよく自動付帯されているけど、そんな金持ちじゃないし…

東芝FlashAirとMaker Faire Tokyo 2014の関係

前日になってIntelが注目のデバイス「Intel Edision」を無料配布すると突然発表して騒然となったMaker Faire Tokyo 2014


Edison無償配布の公式ワークショップ開催 | Edison Lab |

蓋をあけてみたらきょうの配布数はたったの36個でして、開場段階で300人近く入場待機していたわけで、瞬殺でした。まぁ、そうだよね。明日行く人もあんまり期待しないほうがいいと思います。会場内で出店やってるスイッチサイエンスさんで普通に買えますし。

その一方、Intelの隣でスポンサー出展していたのが東芝。Makeのサイトでスポンサードしているのは確認していたけど、正直何出してるんだろうと思ったら、FlashAirをゴニョゴニョすると、もともとSDスロットで動くWifi+HTTPサーバだし、しかもRaspberry Piと連動させたりしてデバイスの制御とかできちゃうよ!という衝撃の同人誌を配りまくってる。XBeeぐらいしかなかったDIY向き組み込み系無線LANデバイスに、いきなりビックカメラでも売ってる汎用機器が使えるようになっちゃうわけです。不勉強なことに全く知りませんでした。ガチのコンピュータをワンチップに詰め込んできたIntelに対して、かなり独特なアプローチ。
と、ここまでなら東芝の社員さん面白いなぁ、で終わるのですが、この同人誌、よく読むと社内事情が結構赤裸々に書いてあり、大変興味深いのです。

要約すると、

  • FlashAirを普及させるキラーコンテンツを探していた
  • 組み込み系で使えるように改造したら面白いよ!と思った人が他部署にいたけど、東芝はSDカードコンソーシアムのメンバーで仕様を逸脱するなんてことは自分では絶対にできないので、例のオレンジ色のWiFi-SDカードに後塵を拝していた
  • が、気がついたら担当事業部がゴリゴリ実装していて、いつの間にか隠しファイルをいじるとSDのI/Fから直接いろいろゴニョゴニョできるように。東芝すげぇ
  • IOT分野のキラーコンテンツは何が当たるのか(範囲も広すぎるので)全然見当がつかないので、OSSの世界で貢献していくことで、自分たちにもヒントが見つかると考えている
  • というわけで、ガンガン仕様公開するよ

ということらしい。OSSの世界で活躍している日本企業というと、Hadoopのコミットメントで世界上位に入っているNTTデータみたいなところが想起されますが、これまでのOSSへの企業の参加というと、社員の技術レベルの向上だったり、それによる企業内のノウハウの蓄積みたいなところに直接的な利害の一致があったような気がします。あるいは参加している社員の履歴書の充実。
それがIOTの分野になると、数多のスタートアップがゴリゴリモックアップを作って市場を創ろうと模索しているところなので、東芝みたいな超巨大企業になると、同じ規模でトライ&エラーをしていても身の丈になかなかあわないから、一個人では(電波法の制約などもあり)開発しにくいWiFiみたいなパーツを提供することで、OSSの世界を通じて市場のニーズを見極めようという作戦なんですね。IOTってそういう側面もあるのか、と、新たな視点を得た気がしました。

ところでこの冊子、もう一つオチがついていて、同人業界で基盤を配ったりするなんてことは東芝としてはやったことがないから、保証とか免責などでいろいろ法務的な作業に行き詰まって、困り果てて有名な同人作家に相談してみたら、「あ、この人東芝の社員だった」という。東芝ぐらい大きな会社だとそんなこともあるんですね…。


僕の本業はラジオ局の編成という部署でマーケティングとかWebコンテンツの開発とかアライアンスの構築をすることにあるんですが、ラジオは人類史上最初でおそらく最後の、個人が受信機を作ることが出来る放送メディアだろうと思っています。はんだごてを握って最初に作るのはラジオだと相場が決まっていたはずなのですが、Makeの会場でラジオ受信機を展示している人は、残念ながら1人もいません。これは結構ヤバイと思っていまして、会社のイベントでもラジオ工作教室を開催したりしてみていた時期もあったのですが、なかなか予算が続くものでもないので、なにか考えなきゃなぁと思っています。

半個人サークルで同人誌をコミケで出すみたいなこともしているのですが、今回の東芝さんの冊子は本当にしっかりとした作りで、頭がさがる思いです。Microsoftさんはコミケの出展は完全に業務時間外に準備していた、なんてエピソードもありますが、東芝さんも社内調整、大変だったんだろうなぁ…(と、きっちり表4に入っている純広らしきものを眺めながら思う)。


余談1。隣の西4ホールでやってた豆腐&大豆食品フェアが非常に良いイベントでした。豆腐の試食はもとより、おでんとかベジミート丼とかネバネバ丼とか、フードコートも充実しています。受付なし(IDをもらうだけ)で無料で入れるので、ギークのみなさんはヘルシーなランチを隣で食べるといいと思います。あと、豆腐生産マシンの展示が楽しいです。

余談2。明和電機のライブが実は最大の目的だったのですが、会長(兄)が出演しててびっくりした。いつの間に復帰したんですか?

余談3。17時からビッグサイトのプロジェクション・マッピングをやっていて、事前に知らなかったのですが結構よかったです。これはあしたはやってないようで、今日行った人は得しましたね。

http://www.bigsight.jp/top_news/pdf/news_info141029.pdf


追記(11/24 10:30)
FMラジオの展示、あったとのご指摘を頂きました。しかもダイレクトにデジタルでソフトウェアエンコードしてる…!大変失礼しました。見落としてました。



LPC4370 LPC-Link2でFMラジオの実装に成功しました! - Computer Radio RF Tech

20時のプッシュ通知ラッシュと放送局の編成的発想の違いと共通点。

ニュースアプリをいろいろ研究しようとインストールしまくってから20時にめちゃくちゃ大量にプッシュ通知が来るんだけど、テレビの編成みたいに19:54に送った方が注目されるんじゃないかとか、土日は生活パターンが違うんだから時間を変えようとか、そういう発想をアプリ屋さんがしないのは何故なんだろう。

逆に、21時とか22時にニュースワイドを編成しているテレビ側は、すでに帰りの電車の中でニュースに触れ切ってるんだから、ストレートニュースの価値はその時間にはないのでは、とかそろそろ思っているんだろうか。

と、この数日連作として届いたグノシーの『あしたは寒いです』シリーズの通知を見ながら考えてます。

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(これ、700万ユーザーの興味の平均値を考えたらこうなったんだろうけど、放送屋がこんな番宣書いたらクビだよね。配信時間はわりと遅い22時台半ばだったのも興味深い。確かにテレビで天気予報やってる時間に近い)
弊社も夕方はニュースワイドやってますが、再考の余地があるよなぁ。

各社ニュースアプリのプッシュ配信時間のまとめとか誰か作ってないかな…ちょっと調べます。
私の所属組織は一応、「放送局の編成」と呼ばれるところなので、番組放送前にアプリで5分前に通知しよう、とか、そういうことをやるわけなのですが、あくまでもこちらの都合で放送が始まる前に通知しようとしているだけで、ユーザー側の心理をもっと考える必要があるのは間違いない。