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放送、通信、防災を経て官民連携を考えるひと。

LEAN ENTERPRISEに学ぶ、新放送サービスi-dioの開発の今後

LEANシリーズを順番に読んでいたのだけど、なかなか日本文化にはなじまないと思われるものもあって、どこを学べばと思っていたら、「LEAN ENTERPRISE」はまさに今読みたい一冊だった。ページ数の割に短時間で読むことができるのだけど、関係者に推奨したいと思うので、弊社の事例をなぞりながら、内容を復習したい。関係外の方々においては、こんなアジャイルな開発手法を取っている放送局があるんだぁ、ということでご笑覧いただければ。

なお、新放送サービスi-dioのシステム概要については、日本ITU協会が発行する「ITUジャーナル」に近日寄稿する予定なので、そちらも合わせてご参照されたい。(英文版も出るそうです)
ITUジャーナル | ITU-AJ

リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)

リーンエンタープライズ ―イノベーションを実現する創発的な組織づくり (THE LEAN SERIES)

前提:新放送サービスi-dioのシステムについて

  • 世界でも前例のない放送システムで、フルスクラッチでの開発が必要であった。開発期間はごく短い。
  • システムのうち、ソフトウェア部分は50万行規模。内製でグループ会社がインテグレーションを担当。
  • ハードウェア部分は複数ベンターの既存機器の組み合わせで構築されており、放送システムとしての採用事例がないものも多い。
  • マスター機器、送信所、受信ソフトウェア、放送運行システム、それらを支える運用ルールが同時多発的に平行開発される。
  • 放送の仕様は柔軟で、常時新たな技術的なチャレンジが導入される。つまり、仕様が動的であるために、ウェブサービス的な開発手法を導入せざるをえないが、「地上基幹放送局」なので、その運用安定性は飛躍的に高いものが求められる。

この段階で気分が悪くなった方は、そっとブラウザを閉じよう。逆に「面白そうだな」と思った奇特な方は、当社の扉を是非叩いていただきたい。

以下は「LEAN ENTERPRISE」の章立てに従ってまとめてみる。

2章 企業ポートフォリオダイナミクスを管理する

i-dioは「なんでも送ることができる放送プラットフォーム」であり、現状は音声、映像、それに連動した高度なデータ放送、自治体向けの防災情報の適時配信が行われているが、さらにIoT機器向けのデータ一斉配信、ファームウェア等のOTA更新、デジタルサイネージ向けの更新データ情報配信など、さまざまな用途が開発途上にある。それぞれ、標準化された仕様がまだない世界なので、開発も個別に動いているし、開発がどんどん横に広がる上に、それらが収益化するタイミングもまちまち。その優先順位を保ちつつ、既存のサービスの保守運用を行なっていくために、個別の実験事例をできるだけリーンに立ち上げていく必要がある。企業ポートフォリオとしての管理手法は今まさに大きな課題となっているし、今週からでも改善を試みたい。

3章 投資リスクをモデル化して計測する

上で述べたような企業ポートフォリオの健全化には投資リスクのモデル化が重要である、という当たり前のことを述べているのだけど、既存事業の改善では計測しやすいものの、市場化そのものから立ち上げようという社内ベンチャー的な(自らもベンチャーなのに!)事案が多いと、リスク管理はとたんにむずかしくなる。一番シンプルなのは、エンジニア兼ディレクターが自らモックアップを作りながら検証することなのだが、アントレプレナー的なマインドセットを極めて高く要求するので、そういう人材はいない(と、後ろの方ではっきりご丁寧に書いてある)ことを前提に、社内で育成するしかない。

4章 不確実性を探索して機会を見つける

よくある「MVP(Minimum Viable Product)を作って製品の市場価値を磨きましょう」というくだり。i-dio自体も、最初にリリースした受信アプリはMVP的な要素が強く、各コンテンツプロバイダ(i-dioにおける放送チャンネルを運営する企業のこと)の仕様上の要請や今後の予定を最小公倍数的に集約した実装となっている。しかしこれが当初、すこぶる評判が悪かった。その理由はこの章でしっかり分析されていて、「実用最小限の製品とは、パブリックベータのことではない」ということだ。単に「実現できること」を最小限実装したものではなく、「顧客が使用もしくは購入したいと思う」「顧客が使い方を理解出来る」「必要なときにリソースを活用して届けられる」、つまり「最初からそのプロダクトの魅力を一部分でもしっかり表現したものを出せ」ということだ。「作ることができるか」ではなく「作るべきか」を問え、ということを肝に銘じて、今後の開発順位を決めていきたい。

5章 製品/市場フィットを評価する

私はコンテンツプロバイダ(我々運用事業者から見ると「電波帯域を買ってくださるお客様」)の営業開発と、コンテンツプロバイダと我々の放送設備を接続する部分のプロダクト(センター設備と呼称される)のPMO業務に加えて、サービス全体のマーケティングtoC分野を含む)と分析も担当しているのだけれども、この部分の人的リソースが全く足りていないので、この章はとても耳が痛い。
意味のないKPI(たとえば受信アプリを何人がダウンロードしたか)ではなく、価値あるKPI(例えば継続的にサービスを利用している顧客がいるか、それによってコンテンツプロバイダの収益は向上しているか)にフォーカスしよう、という活動は最近経営層にも積極的に働きかけながら軌道修正を図っているところだけれども、加えて次のような点にも留意したい。

  • 機能を実験から検証へと進めるときに、積極的に技術的負債の返済を始める必要がある
  • プロダクトは複数のホライゾンに分けて管理すること。現時点で実証され拡大されつつあるプロダクトと、明日のためのシーディングは別々に管理しないと、不確実性の高いものに投資しすぎたり、無理な移行を行うことで危険が生じる

放送でありながら市場のニーズにあわせて変化していく「i-dio」は、日々新たなプロダクトのリリースに追われる宿命にある。まだ安定していないものに一気に移行することにはリスクが高いし、かといって、今の収益源となっているプロダクトを危険に巻き込んではいけない。どのくらいの速度でそれが入れ替わるのかはまだ誰にも予想がつかないので、慎重に予測していく必要がある(2016年になっても「ワンセグ」が廃止されないぐらい、過去の放送は硬直的であった。それに対してi-dioは、放送開始から6ヶ月の段階で、すでに放送フォーマットの(法的手続きを伴わないレベルの)細かい変更は、すでに誰にも気づかれないところで、何度も行われているのだ)

6章 継続的改善をデプロイする

当初の想定を大きく超える規模のシステムとなったi-dioは、テストとデプロイの自動化が放送設備ゆえに非常に困難で、どうしても週に1回の「放送休止帯」にサービスをリリースしたりすることが多かった。また、変更承認のプロセスも当初は行き届いておらず、意図しないデグレにも、放送開始直前には悩まされた。みんな大嫌いにちがいないRedmineのチケットを毎日何百枚も読みながら、全容を把握することに必死だった初期が懐かしい(まだ開発リーダーになってから1年しか経過していないのに!)。
現時点では、大きな変更を伴うコミットのみにセルフチェック的な申請メモを添えてチケットを送付すれば、24時間以内にリリースが承認される体制が概ね整っている。子会社側での体制の改善も効果を出していて、おそらく、世界で一番アジャイルな放送機器開発チームなのではないかと自負している。今後の課題はソースコードが肥大化しつつある受信アプリのオープン化で、複数のメーカに開発参入していただくためにも、改善をさらに加えていきたい。本書でHPの事例から説明されている、「企業のエンジニアのほとんどが、新機能の提供にリソースを費やすことができていない」状況は恐怖でしかない。リソースの付け替えを行うためには、根本的な構造変革(主にソフトウェアの)が必要だ。

7章 価値を明らかにしてフローを増やす

限られたリソースの中で山のような新規開発と現行システムの保守業務を進めていくことは、いちラジオ局を母体にスタートしたこのプロジェクトとしては未知の領域に近い。初期開発の中期には、プロジェクト間の調整が失敗し、手戻りの山で仕様策定のやり直しが大量にスタックする、といった、大規模プロジェクトにありがちな事象もかなりあった。やはりそういったときに有効なのはカンバン方式で、私はミクシィ社に在籍していたころにこの手法の有効性を強く実感したが、i-dioでもかなりお世話になった。特に「WIPを制限する」という観点で、特定のプロセスに課題が積み上がっていることを可視化できるメリットは大きい。あえてこの章に学びを足すとすれば、「カンバンはマネジメント層の目に見えるところに大きく掲出しておくと良い」。i-dio開発プロジェクトでは、部屋の真ん中、通路の中央にホワイトボードを置き、そこにチケットをすべて手書きして貼り付けるところからプロジェクトの立て直しがスタートした。カンバンの前に差し入れのお菓子をおいたりして、ちょっとした隙間時間にその前にエンジニアが集まる習慣を作るとなお良い。全体像を1日に何度か眺めるだけでも、何が課題で、今自分たちがどこにいるのかを理解しやすくなる。「未アサイン」「アサイン済み」に分けて「未アサイン」をゼロにすることだけを管理するPM、「ASAP」「Doing」「Next ToDo」「実装延期」の4つにトリアージして、優先順位を入れ替えたり、潔く諦めることに集中するPM、と役回りを分担して縦横の管理を徹底したことも効果を出した(主に私は「実装延期」にチケットを動かす、悲しい役回りに専念した)。更新の追いつかないWBSよりもホワイトボードのほうが信憑性が高いので、今では本社で開催しているデイリースクラムは、このホワイトボードの写真撮影のカラーコピーで代替されている(これによって削減された人的コストは計り知れない)。
ところで、ポストイットでカンバンを作るときには必ず「強粘着」のものを選ばなければならない。よくチケットが知らないうちにはがれ落ちていて、与件ごと見落としたことがあったのだ。今では強粘着以外は買わない。

ポスト・イット 強粘着ノート 75x75mm 90枚x5個 蛍光 654-5SSAN

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来週からはこの手法を、放送マスター設備から会社全体に広げていきたいと思う。放送局の技術業務には「送信設備の設定変更」から「山を切り開いでアンテナを建築する」まで、1時間程度の粒度から半年スパンまで様々なプロジェクトがあるのだが、それぞれすべてが有機的に関連しているので、それを可視化しながら経営判断に有効に役立てることが、今後のミッションの肝だ。

8章 リーンエンジニアリングプラクティスを導入する

テストの自動化は今一番頭を悩ませている要素の一つだ。ふつう、テレビやラジオはその規格が変更「されない」ことを前提にしているので、ARIBが発行する仕様どおりに送信も受信も行えばいいのだが、i-dioは「仕様自体がかなりの自由度を持っている」。従って、受信ソフトにも我々が関わっている現状はよいが、普及期に入ると、その動作確認は、ガラケーの悪夢を思い出すような状況になることが予想される。
ひとつ救いなのは、i-dioはその初期における制度上の要請から、「3セグメント×3ブロック」の電波体系で設備が分離されていることだ。うち2つのブロックをマルチメディア放送会社が担当し、2ブロックを「Ch−Lo」「Ch-V」と呼び、残りの1ブロックはまだ免許が割り当てられていない(新規参入事業者に割り当てられる予定)。このLoとVで、我々は「放送波自体を用いたA/Bテスト」に近いことが実現できる体制にある。実際に、Ch-LoとCh-Vは、運用上問題のない範囲で別のバージョンのソフトウェアで運行されることがある。

9章 製品開発に実験的手法を使う

いまの我々に一番求められているのがユーザーインタビューなどの手法だと思われる。放送局はエンドユーザーに直接商品を提供できる立場でありながら、実はユーザーとのコミュニケーションがあまり上手ではない。思い込みで製品開発を行わないように、必要なフィードバックを提供するのも私の仕事なのだが、果たして手があと何本あれば足りるのか。この分野で知見をお持ちの方は、ぜひ当社の扉を(以下略

10章 ミッションコマンドを実行する

放送開始半年で、すでにi-dioにはレガシーなプログラム、というものが存在している(それだけ進化の速度が速いのだ)。それらを除去していくことは極めて困難なのだけれども、ビックバン的な入れ替えを目指すのではなく、「ストラングラーアプロケーション」パターンを用いて、次第にレガシーな部分を周囲から絞め殺していくアプローチには、いくつかの不問律がある。「既存の機能を移植しようとせず、新機能から植え替えていく」「テスト可能性とデプロイ可能性を考慮して設計する」「早く届ける」。これらのルールは新PMOチームは忠実に実行してくれているように思うので、安心して推移を見ていきたい。

11章 イノベーション文化を育てる

この章にある至言はひとつ。「安全に失敗できるようにする」。失敗した場合、ひとつの根本原因を特定しようとしてはいけない(もっと複雑である)。原因と対応策を整理することはもちろんだが、世の中はそんなに単純に出来ていない(単純化して、誰かに責任を集中させたがる経営者がよくいるが、あれは何も解決しないし、組織は萎縮するし、害悪でしかない)。

12章 GRCにリーン思考を取り入れる

コンプライアンス的な重要ポイントを明確に分離して、それ以外の部分について権限移譲を進めていくべき、という章。当社では意図していなかったのだが、最も重要な設定を司るシステム(放送に向けてデータの多重化を行う装置の一種)が特定の職能のエンジニアにしか設定できない難易度のものであったが故に、うまく機能していたように思う。しかしその設定部分は本来オープンに他のシステムと通信するように出来ているので、今後はこの部分をオープンにしていく活動が、事業の進化を司っている。

13章 財務管理を進化させて製品イノベーションを促進する

i-dioはハードウェア、ソフトウェアの先行投資が極めて大きい事業なので、この部分は極めて専門的な対応を求められるのだが、それに怯えて判断が遅れると致命的なので、2017年の最大の課題はこの章にあるかもしれない。年次予算編成やシステムのパフォーマンスではなく、そのサービスがデリバリできないことによる遅延コストや、プロダクト単位での積み上げでの思想を定着させるには、現場レベルでコスト意識を明確に持つことが事前に必要だろう。

14章 ITを競争優位にする

この章の中に「災害に備える」という章がそっと入っているのだが、i-dioにおいてはこれこそが要だ。そのための対応は、システムの多重化や復旧手順のドキュメント化などの点では、放送局としてのノウハウの蓄積があるので法令を遵守して対応できているが、今後はシステムの複雑化を前提に、「復旧手順や検証の自動化」がキモになる。通常の放送局に比べて圧倒的に設備のIP化が進んでいるので、遠隔監視もかなりの深度で進んでいるのだが、そこから原因を特定し復旧するまでの部分は人的なノウハウに依存する部分もあり、これを自動化することが重要だと思われる。

15章 今いる場所から始めよう

言わずもがな。「いつやるの?」「今でしょ」。


改めて振り返ってみると、放送局の業務とは思えないことがたくさんあるけれども、それが比較的IT的であるが故に、世界の最新のナレッジを放送に導入しやすくなっているようにも思う。きょうで33歳になったけれども、30代を費やす事業として、引き続きプロダクトの進化に力を注いでいきたい。

茨城県北芸術祭(日立市エリア)では日鉱記念館にも寄るべき

美人すぎる現代芸術家とどこかで呼ばれてるのかどうかよく知らないが、知人のAKI INOMATAが出展しているKENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭を観に行ったので、これから行くつもりの人に向けて、「日立市エリアに行くなら日鉱記念館をぜひルートに入れるべき」とお勧めしたい。

 

なお、うのしまヴィラという場所に行くことが前提になって、人生で初めて日立市に行くことになったのであって、密かに昔から応援している和田永くんとか、チームラボとかの展示が見たいのであれば日立市に軽く立ち寄ろうとは考えてはいけない。茨城は広い上に、県北芸術祭はひとつひとつの作品が、不安になる程離れている。ドラクエだってもうすこし丁寧だろ、と突っ込みたくなるほど、案内看板も少ないので、自分で運転する人は事前によく予習されたい。以下は僕のように年に数回しか運転しない、都内の軟派なドライバーが意を決して茨城に向かう場合の注意点を含む。

 

東京からのアクセスは2時間。朝から行けば同エリア内で三箇所巡れる。帰りはプラス30分

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今回はカーシェアリングで8時から17時までクルマを押さえて、都内からスタートしてみた。

(あ、運転中はAmanekチャンネルアプリをぜひご利用ください。ドライブソングに困りませんよ)

Amanekチャンネル

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相変わらず分岐が忙しなくて怖い首都高を抜けて、アサヒビール筋斗雲を越えれば、常磐自動車道はひたすらまっすぐなのでいつの間にか茨城に辿り着く。行きはほぼ2時間コースだった。昼食にはまだ早いので、日立中央で降りて、思いつきで「日鉱記念館」に行ってみることにする。これがアタリだった。

 

なお、日鉱記念館周辺は一部のキャリアは電波すら届かない山奥なので、GoogleナビとかYahoo!カーナビの人は注意してほしいが、どうせ山道は一本道なので大丈夫だとも思う。茨城に入ったところで適当なPAに立ち寄れば、芸術祭マップが山ほど積んであるので必携。ただし山道は真剣に山道なので、途中でクルマを止めることはできないし、明らかに燃費も悪いので、ちゃんと給油してから行くこと。

 

山奥に佇む日本の重工業の故郷。そして公害との戦いの歴史。

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入口らしきものが突然現れるが、おぉ、着いたと思って正門すぐの第二駐車場に停めてはいけない。そこからかなり先に進んだところに第一駐車場があり、その奥が玄関である。茨城を舐めてはいけない。

 

さて、日鉱とはJXグループができる前の「新日鉱HD」の「日鉱」であり、JOMO、ジャパンエナジーの元の会社のことだ。いまではJX金属と呼ばれているが、実に創業は1905年である。

この記念館の中にも県北芸術祭の作品は展示されているのだが、それはあまり大規模なものではないので、ここでは申し訳ないが説明は省かせていただく。むしろ、この記念館自体の展示があまりにも壮大すぎて、そっちがコンセプチュアルなのだ。

 

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鉱山として開かれた日立であるが、その施設がまんま残されている。しかもアメリカから輸入されたウインチも健在。

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激しいスチームパンク感。

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これ使って普通に人や機材が何百メートルも下まで降りてたわけですよ。

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その隣にある鉱山資料館(建物も当時のままらしい)には、狂気の削岩機コレクション。

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どーんと出てくる日立のロゴ。そう、日立製作所は、日鉱の機械製作所部門から独立した会社なのです。ヤマハからヤマハ発動機ができた話みたいですが、当時から坑道や通勤で使う車両などを作っていたようなので、いまの事業にそのまま繋がってるところもあるのはちょっと驚き。

 

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創業者が住んでいたという(かなりボロい)住居兼本部が残されています。マジで現場のすぐ横でビビる。しかもその隣に作業中に不慮の事故で亡くなられた方の供養をする施設もあって、事業に身を投じる本気度が違う。岩には後年刻んだ「苦心惨憺處」の文字。ぐっと創業期の辛さを思い出して書いた「惨憺」の文字。よほど辛かったに違いない。退職エントリをさらっと書くブロガーとは重みが違います。苦心惨憺、の思いは、この山奥で採掘と共に製鉄業もやっていて、その公害で山が丸ハゲになっていた頃のことを指しているらしい。空気汚染が農業に与える影響などなにも資料がなかった頃で、自社でその影響を模擬施設で実際に計測したり、農家に頼んで作物の上からビニールテント…と思いきや、「障子を張り合わせたもの」をかけて硫黄の含まれる煙で燻してみたりして、探っていたらしい。本気度がやばい。

その結果「これしかない」と一念発起して作ったのが超巨大な煙突。たぶん、当時の感覚で言えばスカイツリー建設くらいのインパクト。いまは残念ながら老朽化で取り壊されているけれど、森は植林の甲斐もあってほぼ完全に回復している。雰囲気だけのCSRではない、本気の問題解決に触れて、自社の活動を振り返って恥じたりする。

 

ちなみに美しい本館は築三十年余り。こちらは撮影して良いのか微妙だったので写真は割愛しますが、建物自体も建築賞もので見所多いです。展示物の中にしれっと混ざってる「孫文と文通してた頃の手紙」がヤバい。孫正義からフォローされたとかで喜んでる場合ではない。孫文である。放送業界にいるとマネージャーさんとフェイスブックで友達になることがあるので、「もしかしてお友達ですか?」に芸能人のプライベートアカウントらしきものが出ることがたまにあるんだけど、孫文クラスが「友達ですか?」にでてきたら、そっとブラウザを閉じるしかない。

 

話が脱線してきたので、うのしまヴィラに向かう。

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 AKI INOMATAの展示があるうのしまヴィラは、日鉱記念館から車で15から20分くらい。なお、この間にガソリンスタンドはなかったので念のため申し添えておきたい。

 

ちょうど正午に着いたのがよくなかったのだが、駐車場待ちが発生していた。ちゃんと警備員を立てて整理してくれていたのはありがたい。海際の素敵なところ。宿泊施設があるので一度泊まってみたい。

風呂は残念ながら宿泊客にしか貸していない模様。ランチは激混みで30分ほど待った。待っている間に作品鑑賞したのでよいのだけど、何組かは諦めて帰った。あと、サイトに載っている海産物はランチには出ない。ランチは洋食メイン。地元の野菜など使っているようで美味しいけど、海産物がご希望の方は、違うところを探した方が良い。とはいえ、日立の展示をめぐると、結局ここしかないのでむずかしい。

 

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AKI INOMATAの作品は、既発作品でヤドカリに3Dプリンタで出力した貝を着せるものなのだが、目の前が海なので、今回はヤドカリに実際に住んでいただいてる様子が生体展示されている。

うのしまヴィラでAKI INOMATAの作品を確認。生体展示は初めて見た。海の見える綺麗な建物で、あるべきところで展示されている感。

とても素敵なので、ぜひ現地でご覧いただきたい。

ここまでで午後2時。帰りを考えると、あと一箇所寄れるかどうかなので、近くにある日立駅に寄ってみる。駅周辺の駐車場はどれも30分百円なので、適当に停めて、駅構内に入る。さすがにエスカレーターはすべて日立製作所だった。

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駅構内がすごい色になっているのも作品。この駅自体も著名な建築なのだけど、それをさらにいじるのがヤバい。ちなみに駅の反対側にあるシビックセンターも、バブル工業感溢れるデザインなので確認されたい。

すごいいろにされてしまった日立駅。もちろん、この動く歩道は日立製作所製です。

 

おみやげは日立煎餅で。

駅の反対側には観光センターもある。本来は最初にここに来ていろいろ案内を受ければいいのだけど、僕の目的はお土産の確保。いろいろ売ってますがここは一択、日立煎餅で。なお、地元のお菓子屋さんが昔から作っているもので、日立製作所のライセンスプロダクトではないようす。

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日立のロゴの隣の丸は日鉱の旗章です。現代的だな。

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中はこんな感じ。

 

帰りは渋滞やらなにやらで都内まで2時間半。日立市にはこんな機会がなければ一度も行くことはなかったかもしれませんが、楽しめました。鉱物マニアも、重機マニアも、アートファンも、それぞれに楽しめると思います。改めて、百年前の日本人のフロンティア精神やばい。

 

BoT(Broadcast of Things)の時代へ

だいぶ間が空いてしまいました。新放送サービスi-dioの立ち上げに関わり、送信設備の開発からコンテンツプロバイダの開拓まで、慌ただしく動いています。放送業界とウェブ業界を8年間行き来してきましたが、両方混ぜこぜにやるサービスを本気で自分で作ることになったのは、なんの因果なのか…。

 

http://www.i-dio.jp

 

さて、i-dioは「移動受信向け地上基幹放送」に分類される放送で、テレビ、ラジオしかなかった放送業界に新しく生まれたカテゴリです。ISDB-TsbによるIPデータキャスト放送をVHF-Low帯で提供するソフト・ハード分離型のブロック別放送、ということになりますが、ほとんどの方には何を言っているのか全く分からないと思います。私も全容の把握に難儀しました。

 

いまのところ、デジタルラジオに似たサービスを提供しているのでわかりにくいのですが、その本質は、IoT機器向けのデータキャスト放送を安価に行う、下り回線専門のネットワークオペレーションを売りにする会社、というのが適切なところです。たとえば気象データを農業センサーに提供する。たとえば災害情報をスマートハウスに提供して防災に役立てる。そんな用途があります。

 

サービスごとに設計レベルから考えられる放送。そんなありえないほど自由な世界は、要するに物理層からソフトウエアレベルまでの知識を必要とする難儀な世界で、日々自分の能力の欠如を痛感していますが、なんとかやっています。

 

近況は、また今度。

Pontaフリーケアプログラムってどうよ

ロイヤリティマーケティングから「Pontaフリーケアプログラム」の無料保障を贈呈します、というレターが届き、仕事柄どういうデータマイニングをして送付先を選定したのか興味が湧いたので、ちょっと調べてみた。

Pontaフリーケアプログラムとはなにか

チューリッヒ保険会社を引受人とする無料3年間の団体保険。『交通事故等で入院時30000円を一時金を受け取れる』と書いてあるが、よく引受条件を読むと、「5日以上の入院」「交通事故、駅構内の事故、車両火災」に限られる。通勤中なら労災になるし、運転中なら自動車保険があるし、鉄道が火災なんて起こしたら鉄道会社の補償があるはずなので、この保険を受取って「よかったー」となるシーンはあまり思いつかない。

誰に送ってるのか

Twitterで検索した感じだと、たぶんPonta会員全員に送っているわけではない。もしや毎日ローソンストアで晩御飯を買っているので、食べているもので健康状態を推定して送ってきているのでは!と思ったけど、これ交通事故保険なので、そもそも加入申込書に健康状態を記載する欄自体がない。(もしあったら私は入院歴があるのでそもそも加入できない)たぶん利用金額ベースで抽出してるだけですね。

同様の保険の案内は、楽天KCとかマルイとか、年会費無料のクレジットカード会社が提携してカード付帯サービスの一環かのように送っているパターンが多い模様。最近旅行保険が付帯されているクレジットカードが減っている気がするし*1、確かになんとなくいいもののように見えるのかもしれない。
ただ、カード会社がこのサービスを提携して提供する最大のメリットは「月額500円の追加補償」プランがあるからのような気がしていて、テンプレで使いまわしているらしい申込書には、追加プラン用にでかでかとクレカの番号を書く欄がある。この手数料収入が提携するカード会社側の最大の目当てなのかも。Pontaのようにクレカ機能のないカードのイシュアーがこういうサービスを積極的に提案するメリットは何なんだろうと改めて不思議に思ったけど、保険代理店として三菱商事インシュアランスが挟まっているようなので、そこの手数料収益が目的の様子。さすが商社。


いずれにせよ、追加補償プラン(入院日額5500円+賠償責任補償最高1億円)は保険料が割高だし、私は会社が広告業のおつきあい的なアレでいろんな団体保険をかけているので入ることはないのですが、カード会社のいろんな会員情報ビジネスは、ますます進化しているなぁと思ったのでした。

*1:私は旅行保険にいちいち入る習慣がないので、支払いに使うことを条件に保険が付帯されるクレカで支払いをして旅行に行くことが多いのでこれはけっこう困っています。ゴールドカードにはよく自動付帯されているけど、そんな金持ちじゃないし…