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FUJII / Blog

ラジオとソーシャルメディアのあいだに。

初音ミクとアイドルのパブリシティ権


初音ミクGoogle CM曲がiTunesで一位を獲得(iTunes)していますが、これまでの広告業界と音楽業界の共存関係の常識を大きく覆す事態がいよいよ起こるんじゃないかと思ってメモ。

著作権管理とVOCALOID MUSIC PUBLISHING

JASRACのJ-WID(http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/)でアーティスト名の後方一致「初音ミク」で検索する*1と、一致楽曲が234曲。

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エグジットチューンズがJASRACに部分信託をしている例。演奏・放送・貸与・通信カラオケはJASRACと契約すれば自動ライセンスされる方式。主に商業CDに収録されるとこの形式になるのではないかと思われる。元放送局にいた僕からすると、放送で楽曲を紹介するには、この形式になっているととてもありがたい形式。(オンエア一回ごとに直接権利者に連絡をとる、というのは正直現実的ではないので…)。

一方、去年ヤマハから業務委託を受ける形で、CGM専門の音楽出版社も設立されました。

自主制作コンテンツ出版管理機構(VMP)の管理楽曲リストはまだ整備されていないようなのですが、この説明を見ると、

当機構においてコンテンツ管理は3パターンです。

取次
クリエイター自身による個人(自己)管理であり、VMPは「取次」のみ行います。利用者からの利用申請のメールは、クリエイターに対して“転送”となります。条件検討または快諾の場合はクリエイターと利用者の間でのやり取りですが、拒絶の場合は当機構が代わることも可能です。

VMP管理
曲毎に、支分権・利用形態についての管理状態を予め設定し、その範囲においては、自動ライセンスとします。利用者は、申請スキームから申請することとなります。
ただし、「貸与権」「放送・有線放送」「業務用通信カラオケ」については当機構では管理することができません。

JASRAC部分管理
曲毎に、支分権・利用形態のうちJASRAC管理が適当な区分である「演奏権等」「貸与権」「放送・有線放送」「業務用通信カラオケ」についての部分信託となり、自動ライセンスとなります。
その他の支分権・利用形態につきましてはVMP管理となります。

JASRACに信託する部分以外については、基本的に同人無償利用の原則となります。

http://www.ugc-pub.com/?page_id=10

と、3パターンに分類。現時点で初音ミク楽曲のマネタイズはカラオケが先行しているから、JASRAC部分管理を選ぶ人が多いのかしら。二次利用がしにくくなるのでVMP管理を選ぶと、放送も通カラもこのスキームで処理できなくなっちゃうんですね。

歌唱印税

一方、忘れられがちですが、JASRACが管理しているのは作曲・作詞・編曲の権利だけで、「歌っている本人」に対する著作隣接権の分配は、CPRAをはじめとする各実演家団体を通じて分配されています。CPRAの利用料規定はこちら。

各レコード会社はCDの売上に対する印税と別に、アーティストに二次利用についてもこれを分配する原資とできるわけですが、印税契約している場合と買い切りになっている場合があります(およげ!たいやきくんを歌った本人は全然お金が入らなかった話が有名ですね)。

最近CGMでコピーを広めてライブとかでマネタイズすればアーティストは儲けられる、みたいな議論が活発ですが、著作権と実演家の著作隣接権をごっちゃにした話が多いような気がします。著作物は画期的に複製が容易になりましたが、実演って労働なわけで、DTMのようにスタジオを使わなくてもマスタリングできる楽曲と、生演奏は、ちょっと区別して考えたほうがいいような気がする。このあたりは追々考えるとして、本題に戻ります。

アイドル産業の未来

アイドルは著作隣接権者としての実演家収入だけで食べているわけではありません。アイドルは同時に本人の知名度を積み重ねることで肖像権の財産的価値を高めて、事務所を通じてそれをマネタイズしています。むしろこっちのほうが儲かる。肖像権というとプライバシーのほうが一般市民にはわかりやすいので、それを食い扶持にしている人たちは、わざとちょっとそのへんをごちゃ混ぜにして啓蒙するようなサイトを作っていたりします。

特にプロモーション、CMで楽曲を使う場合、JASRACに利用料を払うだけでなく、原盤権者から特に許諾を受ける必要があります。
楽曲そのもののプロモーションになるという考えで(肖像権の財産的価値を高める目的で)バーター(つまりタダ)で使わせる場合と、逆にアイドルの持っている経済的価値を商品に提供するということでCM契約金を払ってもらう場合があるわけです。後者のほうをイメージする人が多いはずですが、前者をベースに(聞こえよく「タイアップ」と呼んで)、CM利用以外の稼働(イベントへの出演とか、コラボ商品の開発によるギャランティーの支払いとか)についてものすごく細かい条件を決め合って、ほぼ共同事業のような形になっているパターンのほうが、むしろ多いはず。

AKB48の場合は、AKB48というブランド全体の経済的価値をAKB48劇場での草の根活動とメディア露出で高めつつ(この経過においては意外なほど薄給)、個々のメンバーがCM出演やプロモーション契約を単体で獲得した際に、そのブランド価値をやっとマネタイズできる、というビジネスモデルが成立しています。
従来のレコード会社は、稼ぎ頭のアイドルの収益を、まだ売れていないアイドルの知名度の向上、タイアップの獲得のためにスタッフが動き、お金をつかっていく、という再投資の仕組みを担っていたはずなのです。僕が以前所属していたラジオ業界も、その再投資の仕組みのなかで一緒に動いていたのですが、AKB48は現在の地位を獲得してから、突然メディアに登場してきた印象が強いのです。アイドルの「育成段階」に、メディアはもはや関わらなくなっている気がするのです。

アイドルの供給過剰、みたいなことが言われて久しいですが、この不毛で当たり外れの激しい再投資の仕組みを乗り越えて、「アイドルは偶像なんだしバーチャルで作っちゃえばプロモーション稼働も無限にできるし酷使して儲ければいいじゃん!」と、タレント事務所の生き残り戦略の1つとして、バーチャルネットアイドルを作って売りだそうという歴史は何度もありました。

1995年に生まれた伊達杏子はその初代だったと思われますが、Wikipediaにまとまっている通り、当時の技術的限界ではあまりにも高コストだった。

そんな中、「そのソーシャル・キャピタルは誰のものでもない」が「一私企業の開発した所有物でもある」という矛盾性を持った初音ミクが、CGMの特性によって低コストで拡大再生産を続け、いよいよ肖像権に経済的な大きな価値を持ち始めたのは、いよいよ21世紀はじまったな、という事態です。

CM出演、パブリシティ権初音ミク

初音ミクの今回のGoogle CM出演は本当に大規模に露出されていて、ぼくはGoogleにターゲティングされているのか、一日に何十回もバナー広告を見るし、TVCMも評判がいいのか、めちゃくちゃ出稿されています。

北米トヨタでもCM起用されているし、ニコニコ動画で育ったアイドルが、競合であるGoogleに活用され、さらにそのGoogleの競合であるiTunesで一位を取ったというのは目覚しい。

しかしふと疑問が起こるのは、このCM起用に関する契約関係。クリプトンフューチャーメディアは果たしてパブリシティ利用としているのか、ライセンス費を支払ってもらっているのか。途中で使われているCGMクリエイターの皆さんは最後にクレジットが入っているのでGoogleないし広告会社から接触があったと思われますが、対価は支払われたのか。楽曲はこのCM用に書き下ろしたもののようですが、JASRACのDBにはまだ出て来ませんでした。いろいろと不思議なところの多いCMです。

今回はGoogleという親和性の高い企業からの活用だったのでハレーションは起きていないように感じますが、のまネコ問題 - Wikipediaを思い起こすように、「俺達の◯◯が…!」的な感情が起こったりする背景は、ここまで書いてきたように、その偶像(アイドル)が持つ肖像権の財産権的性質(パブリシティ権)が、CGMのもつ特性の中で育まれ、その育成過程にコミットしていない企業がその経済的効果だけを換金していくことに対する不満があるのだと思っています。

ほとんどの業界において、今後知名度というのはネットを通じて得られるものになるのでしょうから、タレント事務所はほんとに大変になるだろうなぁ、と他人ごとのように感じますが、日本的アイドルは「育てるのにお金のかかる」世界なので、このお家芸を生き残らせるために、音楽業界とタレント事務所、マスコミ業界はどう対応していくのか、見所です。