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放送、通信、防災を経て官民連携を考えるひと。

KMD&CiP ビジネスコンテストに参加してきた。日本の若者が公共分野を目指すのは嫌儲なのか?

株式会社エフエム東京はCiP協議会というものに属していまして、竹芝地区に国際ビジネス拠点を作って、イノベーション特区を構築しよう、という壮大なビジョンを掲げています。i-dioも放送行政上の特区からスタートしていますので、そういう制度面から変えていこうという取り組みを一箇所に集約することにはメリットがあります。

そんなCiPですが、今後インキュベーション機能も強化していきたいということで、ほぼ初となるビジネスコンテストが開催されました。私も支援団体の一人として、さてどんなものが出てくるのか、と出席してきました。

cipbusinesscontest2.wixsite.com

どんなチームが出場したかは説明を割愛しますが、まぁとにかく夏野剛さんが飛ばすわけです。「起業家の9割は詐欺師ですからね!」と、何度言ったことか。

ただ、この言葉は結構重要な示唆を含んでいて、夏野さんがその言葉に込めて言いたかったことは、
「ビジネスモデルとして完成していないものを売りつけるのは、相手を騙しているのと同じ」
「ITリテラシーの低い地方の高齢な経営者を救いたい、と高所からいうのは、相手を騙している田舎のコンサルとほぼ同じ」
「BtoBでビジネスモデルとして完成していないからといって自治体をビジネスの相手に置くのは、逃げているのと同じ」
「現状誰も参入していないビジネスを、自分ならできるというのなら、ブレイクスルーがどこにあるのか明確に説明できない限り、出資者を騙しているのと同じ」
ということなんですよね。

特に日本は領土が狭くてビジネスが東京に集中しているからなのか、営業モデルの部分が薄くて、人間関係で売り込もうとしたり、無意識にリクルート的なビル倒しアプローチを前提としていて、まったくその企業の営業力に見合わない商品を開発したりすることが多いような気がします。(これは全国に営業網があるから、という理由でそこに甘えがちな弊社もよく考えないといけないポイントですが)その割に泥臭い営業活動に尽力しているベンチャーってほとんどなくて、なんとなく見栄えのいいLPを作って、「俺たちかっこいい」で終わってしまう。リクルートバイアウトしたいからそうしている、というならそれでもいいんですけど。

さらに気になったのは、課題解決=ベンチャー、課題といえば地方の課題、みたいな流行がどこかに感じられるところで、地方創生といえばなんでも許されるきがする今の国策がそうさせるのかしら。夏野さんはここでも、「基本的に日本の人口が減る限り、地方の問題は解決しないと思った方がいい。地方経済がそのソリューションで救われるなんて、詐欺師と同じですよ」とぶった切るわけです。さすがにそれは言い過ぎだとは思うけど(地方の「経済が活性化する」は確かによほどの施策でない限り無理だけど、地方の「減少する人的/経済的資源の中で、どうやってその地域を維持していくか、スモールな解決策」はあってもいいんじゃないか)。

そういう身も蓋もない講評を見ながら(横で森川さんは平和そうな顔で眺めていた)、もしかしてこの登壇したベンチャーの皆さんには、どこか嫌儲思想があるんじゃないかしらと不安になったわけです。僕らの年代(80年代後半生まれ)はインターネットのアドテクのブームに乗っていろんなものを「広告収益でまかなう」変なムーブメントがあって、なんでもかんでも無料になっていく中でモノを売ったり、個人からお金をとったりするビジネスモデルを組むのが苦手な人が多い気がするのだけど、広告のプラットフォームがだいたい海外勢に巨大なシステムとして回収されていって、日本固有のカルチャーとして残った記事広告スタイル(それを人によってはネイティブアドと呼んだりするけど、その定義の話に踏み込むのは今はやめておこう)は「ステマ」とか呼ばれたりするし、ということで、「じゃあもう、霞でも食って生きていくか」みたいな世代が、個人からもお金とりたくないし、広告では飯は食えないしで、とりあえず誰も傷つけない分野として、公共分野になんとなく活路を見出そうとしている気がするんです。それでいいんだろうか、と漠然とした不安を覚えました。


ところでこのコンテスト、CiPの連携の取り組みとして、韓国コンテンツ振興院から推薦された韓国ベンチャー2社(この2社は立派に第1弾の投資を受けて、これからまさに成長するところ)のプレゼンもあって、会場が息を飲む立派なプレゼンを英語でこなしていました。古川享さんが興奮して自分の持ってきたデバイスを振り回しながら「もっとこういうのと接続できるように作ってみせてくれ!」とまくし立てていたのが印象的だった(古川さん、脳梗塞の後遺症で歩くのが大変そうではあったのだけど、お元気でなによりでした)。

一社は「絵文字は今や英語より使われている文字だ!」と、絵文字やスタンプをストリーミングできるAPIでアプリに提供する事業者。文字列を適切なスタンプに変換して即時に提示していて、文字コードの壁を超えてスタンプの国際流通を確かに進めそう。ノンバーバルなので発展も早そう。課題は国ごとに異なるスタンプの好まれるデザインをどう考えるか。

もう一社は「ビデオナビゲーションが次の時代はくる!」と、地図ではなく、動画で行き先案内をする映像をクラウドソーシングで集めまくって提供する事業者。AirBnBにすでにSaaSとして提供しているそうで、確かに猛烈にわかりやすいし、こういうものを本気で集めている会社ってなかった。動画とGPSから自動的に「ここを曲がる」とか、編集点を抽出してナビゲーションらしく仕立てるところまでできていて、これは流行すると思った。Googleがまだ入り込んでいない分野をうまく突いてると思う。

最初から国内市場が小さすぎて、海外にいくことを前提に考えている人たちは、視点が1つも2つも高いし、課題設定の説得力が違う。ドメスティックな放送事業を展開している我々も、その点見習わなきゃいけないなぁ。