FUJII / Blog

ラジオとソーシャルメディアのあいだに。

スマートスピーカーが日本のラジオ業界に与えるかもしれないし、与えないかもしれない影響

必死にi-dioのサービス開発をやっていたら1年更新をサボってしまいました。サボったというか、面白い発見や知見は日々山のようにあるのですが、公共分野・防災分野の事業開発がメインになりつつあるので、公開できる情報が極端に少ないです。

さて、ラジオ業界ではGoogle Home買ったぞ!という声が結構びっくりするぐらい多くて、LINEのClova WAVEの先行提供版を買って「うーん、まだまだだなぁ」と思っていた私としては、なんとなく先走りすぎた感があります。
Google Homeが出来るラジオ関係の機能は、日本国内では

  • OK Google, radikoで(放送局名)を聞かせて でradikoを起動(ログイン不要のエリア限定版に限る)
  • OK Google, (放送局名)のニュースを聞かせて で特定のPodcastを再生(紐付けされている一部のコンテンツに限る)

のようです。純粋に、いわゆるラジカセ(ラジオの聴取や音楽の再生に特化した機器)が売れなくなっている今、スピーカー型の機器で単体完結したものが市場で売り場を確保すること自体が、聴取シーンの拡大になってありがたい、という目線で見ている人も業界内には多いと思うのですが、結構いろいろな影響が今後あるはず…いや、そこまで思考が至らないのかもしれないけど…ので、思いつく限りの影響について列挙して、数年後に正解だったかどうか、自分でも答え合わせをしてみようと思う。ちなみにココでは「日本人はシャイだから音声検索は余り使わないんじゃ』とか、既に語り尽くされている論点には触れず、音声メディアとデジタルサービスに関わる人間として興味のあるところを集中的に検討してみる。

本来ラジオが持っているバリアフリー性について再度考えなければならない

言うまでもなくラジオは視覚障がいのある方が最も頼りにしてくださっているメディアであって、元来その点のバリアフリーには強い意識を持っている人が局員にも多い。TBSラジオなどは今でも点字番組表(これは凄く印刷費が高いので大変)を発行しているし、ウェブサイトに音声読み上げバージョンを用意している局も多い。radikoにも最近音声読み上げ版ができた。i-dioアプリは視覚障がい者に優しい作りになっていない、というご指摘も既に頂いている(コレが凄く難しいのだ)。
一方、最近のラジオ番組は様々な趣向を凝らし始めた結果、バリアフリーから遠のいているところがなきにしもあらずで、再度、音声だけで動作するサービスと連動することを契機に、もう一度バリアフリーについて考えなければならないのかもしれない。番組ウェブサイトはもちろんのこと、例えば音声認識でメールを書くような習慣が定着したら、リクエストもウェブサイトのフォームではなく、メールアドレスで募集したりする時代に逆戻りするとか、もっと高度にLINEとかでメッセージを受け付けたりすることになるのかもしれない(TOKYO FMや一部の若年層ターゲットの局では、すでにLINEでメッセージを定常的に募集している番組も増えてきた)。
 

radikoの連続聴取時間は拡大するだろうが、スマートスピーカーで「初めてradikoを使う」人は当面限られる

スマートフォンでラジオを聞く人が増えてリスナーが増えたでしょう、とよく聞かれるのだが、ラジオの聴取率は聴取人数×時間で決まるもので、元々のラジオは何時間もつけっぱなしにすることを前提にしているので、10分とか20分とか、チラ聴きされることの多いスマホは、リーチ人数の拡大にこそ役立つにせよ、ラジオ全体のレーティングを大幅に押し上げる要素にはなかなかならない(そう、ラジオ業界からすれば、スマホで10分間何かを視聴するというのは「短い」のだ)。そういう観点で、スマートスピーカーでradikoを使ってくれれば、スマホよりは長時間聞いてもらえるのではないかという直感的な期待は、業界内には早晩生まれるのではないかと思う。
一方、いまのところGoogle Homeは「radikoで」●●を聞かせて、と頼むと動くようになっているらしい(もしステーション名だけで動くならどなたかご教示ください)。radikoという単語をラジオを聴く習慣が全くない人が想起できるかはちょっと厳しいと思うし、結局、スマホ版のradikoからの併用というのが一般的な利用シーンになるのかなと思う。
radikoで」と言わなくても使えるそうです。ご指摘ありがとうございました。(10/27追記)

そもそも、クラウドだからプリインストールという概念もないし、ガンガンサービスが増える一方、純粋想起で機能名を言わないとその機能を呼び出す事ができないのがスマートスピーカーの恐ろしい特徴だけれども、どうやってその機能を認知させればよいのだろう。放送波でラジオを聴いていて、一生懸命radikoの告知をしているところを聴くと「なんで放送で聞いてくれてる人をわざわざウェブサービスに誘導してコストかけなあかんねん」と私は想うのだけれども(もちろんLISMO WAVEやドコデモFMのように課金サービスに誘導するならわかる)、そのうち「スマートスピーカーでもradikoが使えます」っていう局報が入ってくるのだろうか。Googleをはじめとするプラットフォーマーにとっては、究極的に八方美人がやりやすい、素晴らしいプラットフォームだなぁと想う。

周波数ではなく放送局名の純粋想起がいよいよ重要になるのか

これまでのラジオ局はとにかく周波数を覚えてもらうことがとても重要で、わざわざステーション名に組み込んでいるところもあるし(NACK5とか、HELLO FIVEとか)、TOKYO FMも「80.Love」と毎日何百回も言っている。ワイドFM…という名のFM補完放送を始めたAM局は「FM90.X MHz AM 10XXkHz」とわざわざ両方読み上げていたり。コレの意味はいよいよなくなるのかもしれない。ステーション名を純粋想起していただかねば、聴いてもらうきっかけが今のところない。
起動のきっかけになるステーション名はどの定義を拾ってきているのかわからないのだけど、InterFM897は「897」まで発音しないとだめらしい。検索キーのブレを吸収するのが得意なのはGoogleさんでしょうと思いつつも、これはたぶんradikoアプリと連動する側の処理の問題なので、最近ステーション名を変更したステーションさんは頭を抱えつつ、radikoにそろそろ相談が殺到するのかもしれない。一方、TOKYO FMのように「番組名はいくつか知られているけど、地元のネットワーク局のステーション名がぱっと思い出してもらえないことがある」といった局はそっちで苦しむのかもしれない。

タイムフリーの導入に向けては業界を挙げてのEPGの高度化が求められるが結構たいへん

最終的にステーション名ではなく、キーワードで該当する番組を(過去を含めて)探してきてくれれば一番ステキだなぁと思うのだけど、そもそもradiko自体にも、現状さほど高度な検索機能は存在しない。これはそもそもラジオ業界にEPGという概念がなく、radikoの普及に伴って各局なんとかかんとか番宣らしきものを統一したフォーマットで整理し始めた端緒にある、ということと、生放送番組を中心に、「番組が放送されないと中身が判明しない」番組が多勢、という事情もあったりする。最近はTOKYO FM+をはじめとした「ラジオ番組の書き起こしメディア」が定着しつつあって、これらのメディアはradikoタイムフリーへの誘導をつけるのが定番になってきているので、こういったものを肥やしにできればまた違うのかもしれないけれども、今のところは「OK Google, 横浜ベイスターズの試合を聞かせて」と言っても、ニッポン放送ショウアップナイターが再生できたりはしないし、「OK Google, たかみなの出てるラジオを聞かせて」と頼んでも、TOKYO FMは再生されない。特にTOKYO FMは「ステーション名では認知されていないが、出演者で認知されている番組」が多く、番組サイトが出演者名で検索されたときにSEOできているかとか非常に気にしているのだが、こんどはまた戦地が変わるということか。

ホームIoTの中心機器としてのスマートスピーカーが成長すると、音声広告のコンバージョンポイントが変わるかもしれない

最近のラジオCMはすっかり「●●で検索!」みたいな内容が浸透しているし、ラジオとテレビで検索ワードを変えていたり、みたいなゆるやかなコンバージョン計測も増えているけれども、ウェブ検索への誘導ではなくて、直接スマートスピーカーやSiriに「これを頼んでみて」という訴求のCMが出てきたら、音声広告としての意味がだいぶ変わるなぁと思う。「いますぐ”OK Google, 過払い金請求を相談させて"といいましょう!」みたいなCMが流れ始めるかと考えるとぞっとするけど。いまはテレビでGoogle自身が大量に「こう使うんだよ」という広告を出しているけど、日常的に刷り込むにはラジオしかないんじゃないか。

デジタルオーディオアドの日本での市場化はあるか

そういう観点で音声広告の価値が見直されると、ラジオCM制作部門が局内にある珍しいラジオ局であるTOKYO FMとしては、ウェブ広告にもいよいよ音声広告の出番が増えるかも?と、デジタルオーディオアドの米国プラットフォーマーと資本提携したりしながら将来を探っているようですけれど、果たしてどのくらいニーズがあるのかはまだよくわからない、少なくとも、スマートスピーカーが広告を頼んでもいないのにべらべら喋ることはないだろうから、当面は再度乱立するかもしれない音楽系サービスの差し込み広告枠としての活用からスタートになるのかしら。


まずはひとしきり思いついたところまで。また加筆するかもしれません。