FUJII / Blog

放送、通信、防災を経て官民連携を考えるひと。

初音ミクとアイドルのパブリシティ権


初音ミクGoogle CM曲がiTunesで一位を獲得(iTunes)していますが、これまでの広告業界と音楽業界の共存関係の常識を大きく覆す事態がいよいよ起こるんじゃないかと思ってメモ。

著作権管理とVOCALOID MUSIC PUBLISHING

JASRACのJ-WID(http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/)でアーティスト名の後方一致「初音ミク」で検索する*1と、一致楽曲が234曲。

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エグジットチューンズがJASRACに部分信託をしている例。演奏・放送・貸与・通信カラオケはJASRACと契約すれば自動ライセンスされる方式。主に商業CDに収録されるとこの形式になるのではないかと思われる。元放送局にいた僕からすると、放送で楽曲を紹介するには、この形式になっているととてもありがたい形式。(オンエア一回ごとに直接権利者に連絡をとる、というのは正直現実的ではないので…)。

一方、去年ヤマハから業務委託を受ける形で、CGM専門の音楽出版社も設立されました。

自主制作コンテンツ出版管理機構(VMP)の管理楽曲リストはまだ整備されていないようなのですが、この説明を見ると、

当機構においてコンテンツ管理は3パターンです。

取次
クリエイター自身による個人(自己)管理であり、VMPは「取次」のみ行います。利用者からの利用申請のメールは、クリエイターに対して“転送”となります。条件検討または快諾の場合はクリエイターと利用者の間でのやり取りですが、拒絶の場合は当機構が代わることも可能です。

VMP管理
曲毎に、支分権・利用形態についての管理状態を予め設定し、その範囲においては、自動ライセンスとします。利用者は、申請スキームから申請することとなります。
ただし、「貸与権」「放送・有線放送」「業務用通信カラオケ」については当機構では管理することができません。

JASRAC部分管理
曲毎に、支分権・利用形態のうちJASRAC管理が適当な区分である「演奏権等」「貸与権」「放送・有線放送」「業務用通信カラオケ」についての部分信託となり、自動ライセンスとなります。
その他の支分権・利用形態につきましてはVMP管理となります。

JASRACに信託する部分以外については、基本的に同人無償利用の原則となります。

http://www.ugc-pub.com/?page_id=10

と、3パターンに分類。現時点で初音ミク楽曲のマネタイズはカラオケが先行しているから、JASRAC部分管理を選ぶ人が多いのかしら。二次利用がしにくくなるのでVMP管理を選ぶと、放送も通カラもこのスキームで処理できなくなっちゃうんですね。

歌唱印税

一方、忘れられがちですが、JASRACが管理しているのは作曲・作詞・編曲の権利だけで、「歌っている本人」に対する著作隣接権の分配は、CPRAをはじめとする各実演家団体を通じて分配されています。CPRAの利用料規定はこちら。

各レコード会社はCDの売上に対する印税と別に、アーティストに二次利用についてもこれを分配する原資とできるわけですが、印税契約している場合と買い切りになっている場合があります(およげ!たいやきくんを歌った本人は全然お金が入らなかった話が有名ですね)。

最近CGMでコピーを広めてライブとかでマネタイズすればアーティストは儲けられる、みたいな議論が活発ですが、著作権と実演家の著作隣接権をごっちゃにした話が多いような気がします。著作物は画期的に複製が容易になりましたが、実演って労働なわけで、DTMのようにスタジオを使わなくてもマスタリングできる楽曲と、生演奏は、ちょっと区別して考えたほうがいいような気がする。このあたりは追々考えるとして、本題に戻ります。

アイドル産業の未来

アイドルは著作隣接権者としての実演家収入だけで食べているわけではありません。アイドルは同時に本人の知名度を積み重ねることで肖像権の財産的価値を高めて、事務所を通じてそれをマネタイズしています。むしろこっちのほうが儲かる。肖像権というとプライバシーのほうが一般市民にはわかりやすいので、それを食い扶持にしている人たちは、わざとちょっとそのへんをごちゃ混ぜにして啓蒙するようなサイトを作っていたりします。

特にプロモーション、CMで楽曲を使う場合、JASRACに利用料を払うだけでなく、原盤権者から特に許諾を受ける必要があります。
楽曲そのもののプロモーションになるという考えで(肖像権の財産的価値を高める目的で)バーター(つまりタダ)で使わせる場合と、逆にアイドルの持っている経済的価値を商品に提供するということでCM契約金を払ってもらう場合があるわけです。後者のほうをイメージする人が多いはずですが、前者をベースに(聞こえよく「タイアップ」と呼んで)、CM利用以外の稼働(イベントへの出演とか、コラボ商品の開発によるギャランティーの支払いとか)についてものすごく細かい条件を決め合って、ほぼ共同事業のような形になっているパターンのほうが、むしろ多いはず。

AKB48の場合は、AKB48というブランド全体の経済的価値をAKB48劇場での草の根活動とメディア露出で高めつつ(この経過においては意外なほど薄給)、個々のメンバーがCM出演やプロモーション契約を単体で獲得した際に、そのブランド価値をやっとマネタイズできる、というビジネスモデルが成立しています。
従来のレコード会社は、稼ぎ頭のアイドルの収益を、まだ売れていないアイドルの知名度の向上、タイアップの獲得のためにスタッフが動き、お金をつかっていく、という再投資の仕組みを担っていたはずなのです。僕が以前所属していたラジオ業界も、その再投資の仕組みのなかで一緒に動いていたのですが、AKB48は現在の地位を獲得してから、突然メディアに登場してきた印象が強いのです。アイドルの「育成段階」に、メディアはもはや関わらなくなっている気がするのです。

アイドルの供給過剰、みたいなことが言われて久しいですが、この不毛で当たり外れの激しい再投資の仕組みを乗り越えて、「アイドルは偶像なんだしバーチャルで作っちゃえばプロモーション稼働も無限にできるし酷使して儲ければいいじゃん!」と、タレント事務所の生き残り戦略の1つとして、バーチャルネットアイドルを作って売りだそうという歴史は何度もありました。

1995年に生まれた伊達杏子はその初代だったと思われますが、Wikipediaにまとまっている通り、当時の技術的限界ではあまりにも高コストだった。

そんな中、「そのソーシャル・キャピタルは誰のものでもない」が「一私企業の開発した所有物でもある」という矛盾性を持った初音ミクが、CGMの特性によって低コストで拡大再生産を続け、いよいよ肖像権に経済的な大きな価値を持ち始めたのは、いよいよ21世紀はじまったな、という事態です。

CM出演、パブリシティ権初音ミク

初音ミクの今回のGoogle CM出演は本当に大規模に露出されていて、ぼくはGoogleにターゲティングされているのか、一日に何十回もバナー広告を見るし、TVCMも評判がいいのか、めちゃくちゃ出稿されています。

北米トヨタでもCM起用されているし、ニコニコ動画で育ったアイドルが、競合であるGoogleに活用され、さらにそのGoogleの競合であるiTunesで一位を取ったというのは目覚しい。

しかしふと疑問が起こるのは、このCM起用に関する契約関係。クリプトンフューチャーメディアは果たしてパブリシティ利用としているのか、ライセンス費を支払ってもらっているのか。途中で使われているCGMクリエイターの皆さんは最後にクレジットが入っているのでGoogleないし広告会社から接触があったと思われますが、対価は支払われたのか。楽曲はこのCM用に書き下ろしたもののようですが、JASRACのDBにはまだ出て来ませんでした。いろいろと不思議なところの多いCMです。

今回はGoogleという親和性の高い企業からの活用だったのでハレーションは起きていないように感じますが、のまネコ問題 - Wikipediaを思い起こすように、「俺達の◯◯が…!」的な感情が起こったりする背景は、ここまで書いてきたように、その偶像(アイドル)が持つ肖像権の財産権的性質(パブリシティ権)が、CGMのもつ特性の中で育まれ、その育成過程にコミットしていない企業がその経済的効果だけを換金していくことに対する不満があるのだと思っています。

ほとんどの業界において、今後知名度というのはネットを通じて得られるものになるのでしょうから、タレント事務所はほんとに大変になるだろうなぁ、と他人ごとのように感じますが、日本的アイドルは「育てるのにお金のかかる」世界なので、このお家芸を生き残らせるために、音楽業界とタレント事務所、マスコミ業界はどう対応していくのか、見所です。

PS VitaとPodcast

前回のエントリの続き。

あまり知られていないように思うのですが、PSPにはPodcastRSSチャンネル、とか以前ソニーは呼んでいましたが)の購読機能がついています。

筆者がウェブまわりを昨年夏まで担当していたTOKYO FMでは、PSP公式対応のPodcastサイトをわざわざ用意していました。需要あるの?とあなどるなかれ、SCEの公式ポータルからリンクされていたこともあり、それなりのダウンロード数があったのです。

TFMのPodcastはちょっと変態的なぐらいにマルチデバイス対応を推進していて、JFNの基幹局ということもあり、ラジオとウェブの連携に必要なメタデータの技術仕様の策定にも積極的です。

しかし、なぜかPS VitaではこのPodcast機能が外されてしまったのでした。将来的にアプリケーションが配布される可能性はあると思いますが、Playstation Storeでのビデオ販売、torneと連携しての書き出し機能、ニコニコ公式アプリの配布(近々生放送の配信もできるようになるらしい!)など、メディアプレイヤー系の機能が充実している中で、なぜかPodcastだけが落とされてしまった。

Podcastがビジネスにならなかったと言われて久しいですし、iTunes StoreのPodcastカテゴリぐらいしかまともなプロモーションメディアがないのも事実なのですが、個人的にはPodcastの仕組みは今でも非常に重要だと思っています。

Podcastが重要な役割を果たしたのは、他ならぬ東日本大震災でした。

震災を受けてJFN系列で放送が始まった政府広報番組「震災情報 官邸発」。当初はJFN系FM局での放送だったのが、一気に被災地AM各局、各地のコミュニティFM・災害臨時局にもネットワークが広がりました。当然、系列を超えての番組配信には通常の配信機器が使えるはずもなく、一部のステーションにはWeb経由で取り急ぎの配信網が構築されました。
このとき、同時にPodcast配信も緊急に立ち上げ、SCEApple US本社それぞれのご好意で、PSPブラウザトップ、iTunes Storeトップの両方から一斉にダウンロードリンクが貼られたのでした。両社とも連絡を入れ次第、かなりのスピードで対応してくださり、いまでも感謝しきれない思いです。

震災情報 官邸発、PodcastはPSPでもお聞きいただけます。ソニーコンピュータエンタテイメントのご協力で、PSPポータ... on Twitpic

刻々と変わる情勢の中、多忙を極める枝野官房長官(当時)自らが直接国民に向けて毎日収録して放送する、という、極めて例外的で緊張を強いられる番組でしたが、優秀なスタッフに支えられて、連日、系列/非系列局/radikoをはじめとするサイマルキャスト/Podcast/政府広報オンラインと、ありったけの手段で配信し続けられたのは、ラジオマン冥利に尽きる仕事でした。

ところで、災害時におけるPodcastの強みは、「蓄積型で一度ダウンロードすれば繰り返し聴くことができること」「いつでも全編をダウンロードできること」です。被災地ではテレビやラジオは基本的に生放送をつけっぱなしですから「大事なお知らせを繰り返して伝える」ことがなかなかできません(のちにデジタルサイネージを導入した自治体もありました)。政府がラジオ番組と平行して展開した壁新聞は、輸送上の課題と、多人数が一斉に見れない、視覚障碍者に届かない、という課題がありました。ネットワークさえきていれば、Podcastで配信して、その端末を拡声器なり、館内放送なりで何度でも聴かせることができる、というメリットがあります。
スマートフォンでも同じ事はできますが、携帯電話の限りあるバッテリーは誰だって、被災直後は他の用途に使いたいもの。PS Vitaのような、大容量のバッテリーを積んでいて、しかも通信機能が搭載されているけど、被災直後には用途が薄いデバイスに、Podcastをダウンロードする役割を担って欲しいのです。

いざ災害が発生したときに、運良く電源状態のいい携帯電話やラジオを持ち歩いているとは限りません。一つでも多く、いざというときに情報を届けるデバイスを確保するために、PS Vitaには近いうちにPodcast機能が搭載されることを、願っています。

PS Vitaと青少年アクセス制限問題

PS Vitaを購入して、ご多分に漏れずフリーズしたりして色々四苦八苦していますが、今回書きたいのはゲームの話ではなくて、インターネット機能の話です。

Vitaフィルタリングのしくみ

3Gモデルのdocomo SIMがフィルタリングサービスに原則加入になっていて、ほとんどの掲示板・コミュニティ機能のあるサイトにアクセス出来ない件については、説明があまりにも足りないこともあって大混乱を招いていたように見受けましたが、私自身はWi-Fiモデルを購入していたので、以下誤りがあったらご指摘いただけると幸いです。

あちこちの解説にあるとおり、このフィルタリングは法律に基づくdocomo側の設定によるもので、購入時に年齢確認ができていないので原則加入ということになります。Vitaが導入を推奨している、Wi-Fi/3Gともに利用できるデバイス側のフィルタリングソフト(http://www.jp.playstation.com/psn/filtering/)とは無関係です。しかしdocomoのページ、説明わかりにくい。

このフィルタリングはspモードフィルタとおそらく同等のもので、「docomoと無関係な第三者企業が機械的にサイトを系統分類したデータに基づいて」「不法、主張、アダルト、出会い、グロテスク、セキュリティ、ギャンブル、コミュニケーション、成人嗜好、オカルト」カテゴリをNGに+「コミュニティサイトのうち、EMA認定がとれているものを除きすべてNG」とするものです。

この「コミュニティサイト」という定義が非常に面倒で、通信の内容は秘密を守らなければならないので、形式的に、掲示板的な投稿機能があるものはすべてひっかかってしまいます。ブログもだめ。というわけで、大手ニュースサイトも一部を除いて一斉にはじかれてしまい、ちょっとした騒ぎになった次第です。

…あれ、そういえばPSNのフレンド機能とかみんいつとかVita標準搭載のFB連携機能とかはコミュニティサービスじゃないの?というのはちょっと気になりますが…。

EMAの役割

ただ、それではあまりにもアレなので、コンテンツ業界の自助努力でEMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)という第三者機関がつくられていて、ここに「サイトの運用監視をしっかりやっている」と査定をしてもらって、各キャリアはホワイトリストとして認定サイトを個別に穴あけする、という作業をしています(ガラケー、スマフォ、PS Vitaで共通)。私自身、前職で運営していた中高生向けの深夜ラジオ番組連動のWebサービスが突然フィルタリング対象となって猛烈なクレームを受けたところから突貫でEMAを取得するという作業をしたことがあって、そのときに、この制度の仕組みの「いまできる最善の策だけど限界はあるよね」感にずっと悩まされてきました。この審査はわりとコストもかかり(二重にサイトを監視することになるので当然であって、誰か天下りで儲けている人がいるわけではないです)、いまだに32サイトしか取得できていません。…たった32サイト!認定通過率は66%。

いちおう、この32サイトののべ会員数は1億人を超え、業界内のカバー率はそれなり、ということになっていますが、正直言って、この32サイトだけが見えるケータイってどうなの?とは私も思っています。mixiGREEMobage、Hangameはかなりのコストを割いてEMA取得をしていますが、当然こんな日本のローカルルールにTwitterFacebookが対応してくれるはずもなく。とはいえこれしか今のところ、警察や一部の「子どもにケータイ持たせなきゃいい」的な条例を制定している地方自治体の規制強化の動きに抵抗する方法はこれしかないので、中高生のケータイからアクセス出来ない、ということがどれだけの営業損失になるか、ということを説いて回っているのですが、なかなか理解が広がらない。

今回、ゲーム機という非常にわかりやすい「子どもがもつ」というシーンがわかりやすいデバイスに、はじめて標準でSIMが載ったことで(Wi-Fiだけだとこういう話にはならない)、一層このあたりの議論が深まればいいなぁ、と願っているのですが、当事者であるdocomoとSCEがあまりこの件について細かい情報提供をしている気配がないので、やっぱり根本的な解決のないままになってしまうのかもしれません。
ちなみにSoftBank iPhoneの場合、孫さんがうめけん君を念頭において「中高生がツイッターを使えないとかありえない」と一昨年あたり吠えていたのがおそらくきっかけとなって、「ウェブ利用制限(弱)」という曖昧なサービスをひねり出していて、TwitterFacebookSoftBankがお墨付きを与えたそれらの連携アプリは「例外」として使えるようにする、という強引な荒業を繰り出しています。

逃げずに「厨房の砂場」をつくるしかない

…だいぶ頭痛い感じの現状の整理をした所で話を戻すと、ポケモン以来携帯ゲーム機に与えられた「子ども同士のコミュニケーションの手段」という役割は、そんなもん使わないと友だちがつくれないのか!そのへん走りまわって草野球でもやってろ!とか言っている場合ではなく、マンガも深夜ラジオもクラスの共通の話題ではなくなってしまった今、わりともうしばらくの間は、彼らをつなぐ役割を担い続けるんじゃないかと思っています。

子どもの遊び道具が完全にスマホに移行したら再び混沌の時代がやってくるのだろうけど…。比較的コントロールがしやすいゲーム機というデバイスにインターネットが入ってきたいまのタイミングで、うまいデザインをしてあげれば、子どもたちに「大怪我しないて程度にヤケドしてネットの安全な利用方法を覚える」砂場遊びの場が作ってあげられると思うんですが。

いきなりPCとケータイがネットにつながった酒鬼薔薇聖斗世代の私達(筆者は1983年生まれです)は、おっかなびっくりネットデビューした時しながら、厨房とか2chで罵られつつ、痛い思いをしながらネットのいろんなリスクやマナーを学んできました。けれども当時に比べて、ネットはずっと公共性が高まって炎上リスクも増しています。いきなりTwitterとか使い始める小中学生を見ていると、高校の情報科教員免許を取ったりしている私は本当にハラハラするので、なんとかしてあげたい、と悩む日々です。


EMAの件だけでだいぶ長々書いてしまったので、ネットデバイスとしてのVitaに関する話題としてPodcastについて書きたいとおもったのが本題だったのですが、それは別の日に改めて。

ソーシャルゲームの方法論をテレビに。2012年末年始テレビ×Web企画

本年も何卒よろしくお願いいたします。

年末年始、久々にテレビを見る機会が増えていますが、今年は各社、工夫を凝らした実験的なWeb連携企画を展開してますね。関係者のみなさま、おつかれさまです。

個人的に気になっているものをいくつか…と思ったけど、並べてみたらNHKばかりだった。

スマートフォンアプリ NHK紅白 | 第62回 NHK紅白歌合戦

紅白NHK公式アプリ。ついにらじる★らじるが始まって、音声だけとはいえ紅白が完全ウェブストリーミングされた年になりましたね…らじる★らじるアプリと連動していたらもっと面白かったのですが、そもそも地デジとらじるとアナログラジオでかなり遅延差が出ていたので、難しいかなぁ…。
視聴者投票はケータイの事前募集と地デジが中心で、スマフォからの当日投票は機能として用意しなかったようですが、60秒間でどれだけクエリを捌けるか、キャパシティが課題でしょうか。
舞台裏カメラ機能が用意されていましたが、実際には曲目名が表示されるだけだったようです。おそらく設計時と意図が違うと思うのですが、こんどゆっくり聞かせてください>中の人。
YouTubeが紅白連動の新聞全面広告を打ってきたり、チームラボがAR演出を担当したパートがあったり、Web業界の人には時代を感じるシーンが多い紅白でした*1

双方向クイズ 天下統一

今回の年末年始番組でもっとも注目しているのがこれです。「データ放送連動クイズ番組」から一歩踏み込んで、

  1. スタジオの正解・不正解よりも視聴者の正解率を優先
  2. オンタイム以外にも仕掛け作りをして、事前問題をクリアすると本番で有利になるアイテムを配布
  3. 参加者のインセンティブとして、地デジデータ放送内でアバターアイテムや城下町づくりゲームのゲーム内インセンティブを配布

などなど。データ放送はやったところで出費が増える一方なので、民放よりもNHKのほうがトライしやすい分野ではあると思いますが、かなり挑戦的な内容。
最近映画のデータ放送でよくある「継続視聴でマイルがたまって最後にプレゼントに応募できる」「放送内でクイズを出題」などの方法では、継続視聴率を稼いだり、HDRに録画してもこういった部分は再現できない場合が多い*2ので、リアルタイムで視聴するインセンティブにはなるのかもしれないけど、視聴者ひとりの単位時間あたりの顧客価値が根本的に増大するわけではなかったと思います(むしろ映像の画面狭くなってるし)。

この番組の場合は、事前番宣として放送波で非同期的にソーシャルゲーム風のものをサービスしておいて、当日の参加にむすびつける手法をとっているわけで、要するにゲームの「ボス戦」の部分を同期的に提供しようという試み。事前に視聴者がこのコンテンツに投じている時間がそのまま期待として持ち込まれることになるし、民放ならプレコンテンツの部分も含めて、全体にスポンサーをつけられるような構造になっている。2011年にソーシャルゲームで流行した要素を徹底的にデータ放送に移植した形になっていて、Mobageって今年のベイスターズの野球中継にこういう手法を取り入れるのかもな、と頭をよぎった。

おやすみ日本 - NHK総合

おはよう日本」を擁する公共放送が深夜に「視聴者が全員寝るまで終わらない番組」をつくるという斬新な構想はさておき、「眠いいね」ボタンが気になる。
Webサイトに最近はもういいよってぐらいつけられている、各種ソーシャルメディアのシェアボタンは、ぼくもウェブマスター時代にこれでもかってぐらい実装しまくったけど、実は読者が積極的に押す理由付けがほとんどなくて、そこから目を逸らしたいがゆえに、押す理由として「ゲーミフィケーション」という言葉がバズってる印象があります。選択的な消費でライフスタイルを表現する人々はイケてるサイトをシェアしまくるのでしょうが、だってあなたのサイトの商品は別にカッコよくな(ry
地デジの「dボタン」も、なかなか押してもらえないボタンの時代が長かったように思いますし、いまのところ地デジのデータ放送「から→」ウェブサービス側に連携させた事例というのは聞いたことがないので、「dボタンを○○さんが押したよ!」とかソーシャルメディア経由で通知されるようなことも当分ないだろうなぁ、と思うのですが、とにかく「テレビ局側にだけ押した事実が通知される」ボタンを、なんとなく受動的に番組を見ているだけの人がわざわざ押す理由が薄かった。
この番組が促しているのは「番組を観ていて眠くなってきたら眠いいねボタンを押してください(ただし何回でも可)」というかなり矛盾したオーダーで、まぁそれはネタだからいいんだけど、意見とかクイズの回答とかでなく、「ねたおきたたべた」系の、いちばんパブリックから遠いライフログをマスメディアで集めるというのはこれから起こりうることだとおもう。いつだって生理的欲求はコンテンツとして強いし。
ねたおきたで思い出した。Pathを使っていて優れているなと感じるのは「眠りにつく」ボタンを押すと画面にでっかい月がでてきて何もできなくなるところ*3で、自分も相手も寝ようとしているところにソーシャルを持ち込まないように出来てる。2012年はdisconnectがビジネスになる、と、ある人が言っていたけど、こういうことか!と思った。

『イマつぶ』『みるぞう』『tuneTV』に『踊る大捜査線 特設ページ』を開設! - とれたてフジテレビ

ほとんどNHKネタだったのでひとつだけ。イマつぶは今後どうしたいんだろう、というのはさておき、tuneTVは今年、急に存在感を出してきた印象。紅白でも出稿あったようだし(TwitterのPromoted Trendまで買わなくていいじゃん、とは思ったけど)。使ってみると、これまでいろいろな会社がトライしてきた、「テレビのとある瞬間に対して言及するのに、どこにPermalinkを見出せばいいのか」問題に対して*4、「その瞬間のハッシュタグの魚拓を見せればはやいじゃん」という自己言及的な解を出しているところが鮮やかだと思った*5。インターフェイスもこれまでのいろいろなサービスの集大成っぽくなってる。

もう少し見つけたら書き足します。

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以下1/13追記。

NHK NEWS WEB「NEWS WEB 24」

通常は定時ニュース(NEWS24)を放送している時間に、津田大介をゲストに招いてNHKニュースWEBのアクセスランキング順にあくまでも「NHKニュース」フォーマットのニュースを紹介し、Twitterのハッシュタグで募集したコメントを拾う、という企画。Twitterのタイムラインとアクセスランキングで作られている「毎日RT」にコンセプトは似ている。
アクセスランキングベースで編集するのはテレビのキュレーションの役割放棄なんじゃと思う人もいるだろうけど、ニュースを批判的に観てみる訓練をNHKが自らやってるということなんじゃないかなぁと思う。ふつうにニュースみてたら、ニュースの紹介順なんかみんな気にしてないよね。ストレートニュースであっても、テレビニュースにはどうしても特定の目線や印象が入る。それを相対化するような作りになるんじゃないだろうか。ちなみに「おやすみ日本」はTwitterの投稿はデータ放送で紹介していたが、この番組ではユニバーサルデザインを強く意識しているNHKでは例外的と思われる小さな字幕でインポーズされていた。見ることを強制される作り。そのつくりの違いも、意識的なものではないだろうか。

字幕は強力な「RT」みたいなもの。2画面方式(テレビ+スマホ)でニュースを見ていた人は「別に画面にTwitterを出さなくても連動はすでに実現されている」という趣旨のコメントをしていたけど、番組の視線を相対化するという意味ではTwitterを「みていない」層にこそ価値のある企画ともいえる。(その場合、コメントの選定の仕方が本当に難しいが)

放送局にとって莫大なリソースのかかる定時ニュースの編成をかえるのは難事業。24時に短時間でテストをしたのはやむを得ない物理的制限と考えて、欧米で増えてるふつうのニュースにツイート字幕を出す手法の基本的なメリット・デメリットをまず議論したほうがいいと思うのだけど、ハッシュタグは「24時のニュースは大事な情報源だから野心的な企画で潰さないでくれ」という声多し。

やっぱりこの類の双方向ニュースは、ラジオのワイド番組でやるのが落ち着くな、とは思った。テレビのふつうのニュースを改革する意欲には惜しみない拍手を送るけど、難易度は高そう。