FUJII / Blog

放送、通信、防災を経て官民連携を考えるひと。

石巻をみてきた

f:id:gleam:20120428185024j:plain:rightこの連休、東北に向かっている人も多いと思うのですが、僕も4/28-29の二日間に、突貫で行ってきました。
思い立ったのが1週間前で、宿も電車もまったく取れていない状態で上野駅へ。スマホがなかったら死んでた気がする。
去年の3.11のときには僕はまだラジオ局員で、スタジオの中で必死に東北の状況を追いかけていました。周囲のスタッフは技術支援とか取材とか公開放送とか、頻繁に現地に向かっていたんだけど、僕自身はウェブ担当という立場でもあり、行く機会を失っていました。今はIT企業にいるので、特段業務を帯びているわけでもなく、観光として行ってきたのですが、思うところもいろいろあったので、以下、下手な旅行記といまいちな写真ブログとうさんくさい報道批評のどれでもない感じの文章になることを覚悟しながら、メモ。

なお、文中の写真をふくめ、撮影したものはflickrにCC-BYでアップしているので、企画書とかに使いたい方はどうぞ。
http://www.flickr.com/photos/gleam_df/sets/72157629561444604/

仙台までは新幹線で移動し(行きはタッチの差ではやぶさのチケットがとれず悔しかったので帰りは絶対乗ろうと心に誓った)、仙台で一泊。とりあえず牛たんを食べたり(Twitterで太助分店 http://www.tasukebunten.com/ を教えて頂き、GWなのにガラ空きで悠々堪能してきました)、ベタに青葉城跡に行ったり。

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市内はもう震災の爪痕は感じない状態だなぁ、と思っていたら、青葉城跡はあちこち道がふさがっていたり、鳳凰の塔がまるごと落っこちたりしたまま。駅から青葉城に向かうバスの途中で東北放送本社に通りがかり(仙台の放送局って、送信所の真下に演奏所があるパターンが多いんですね)、この送信所は無事でよかったと思う。ラテ兼営局なので、当時は燃料不足でかなり大変だったと聞くけれども。東京はほとんどの放送局が同じ場所に送信所を持っているので、被災したら大変だな…。スカイツリーに移転しても東京タワーのバックアップ機能としての重要性には変わりない。

カプセルホテルまで満室で宿があまりにも確保できないので、現地のバーに飛び込んで情報収集。いつものカバンだけの軽装だったのだけど、バーテンさんには「仙台のひとじゃないですね?」とすぐ気づかれる。「いや、今日宿がないのはまずいでしょう…」と突っ込まれつつ、去年のことをきくと、「一週間後にはもう営業再開してましたよ、水と電気があればできるので」と。東京で同じ規模の地震があっても、そうできるものなんだろうか。

なんとか確保できたホテルは未だに震災対策を真剣にやっていて、トイレに非常用水が貯め置きしてあったりした。これは東京のホテルも見習うべきかもしれない。

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翌日は早起きして、仙台駅からミヤコーバスで石巻へ。女川まで行ってみたかったけれども、そこまで行ってしまうと日帰りが厳しいので断念。JRはまだ復旧していない区間が多いけれども、平日は大回りして直通電車を出しているらしい。休日は使えない。ミヤコーバスは30分おきぐらいに頻繁にバスを出しているけど、補助席まで使って僕はぎりぎり乗れたものの、5人ほどバス停に積み残された模様。予約制ではないので、GW後半にこれに乗るつもりの人は、なるべく早く乗り場にいたほうがいい。往復1500円。

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石巻駅は駅舎は完全な状態だけど、駅周囲の道の凹凸がすごい。不思議なことに、完全に使用不能になっている建物と、外見上はほぼ無傷の建物が交互に立っていたりして、復興に向けて足並みを揃えることの難しさを感じる。
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駅舎には「ここまで津波がきました」という標識がついていた。このあともこの類の標識はあちこちで目にすることになる。サイボーグ009や仮面ライダーの像があちこちに立っていて、これに導かれながら石ノ森萬画館に向かうことにする。

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そういえば駅前のデパートが撤退後に市に寄付されて、そのまま市役所として活用され始めたのが2010年のことだったらしい。比較的浸水被害の少なかった駅前で、これだけしっかりとしていて規模もある建物が司令塔になったことは、偶然の救いだったんじゃないだろうか。いや、仮面ライダーに守られたのか。

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ラジオ石巻は日曜日だったので残念ながら無人。市役所と目と鼻の先という好立地で、かつ3階にあって浸水を免れたのは良かったと思う。コミュニティFM局って街の活性化に役立てようと、どうしても大通りに面したところに公開スタジオを作りがちなんだけど、津波被害の可能性がある場所では鉄筋コンクリート造のビルの中層階に作らないとだめだな、と痛感する。ラジオ石巻の本が出ているらしいのだが、無人だったので購入できず。

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GWで事務局自体がお休みなので、この期間中は個人のボランティアは受け入れられていないのだけど、自律的に活動できる団体は動いているようで、消防団の人たちが生協の跡地(というか、建物だけが無事で中は完全に被災してがらんどう)で子ども向けのシャボン玉ショーをしていた。延々、その模様がほとんどの店舗があいていない商店街の放送で流れていて、「音声だけなのに様子がさっぱりわかんねえ!」と気になりすぎて見に行ったのだけど、現地の子供達が楽しんでいたので、ちょっと邪魔したくないな、と退散。

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他にも外国人のボランティアチームが個人宅の清掃をしていたり、Peace Boatの人たちが花を植えたり(唐揚げ弁当を食べながら「せぼーん」って言っていたのでフランス人だったのだろうと思う)、5/4-5に開く鯉のぼりのイベントの準備をしているのをみかける。神社の境内でもささやかなお祭りをやっていた。
個人的には本人の純然たる善意でやっていても、パブリシティっぽくなってしまう芸能人の慰問イベントみたいなものは現地の人達にはどういう風に見えているのだろう、とずっと思っていたのだけど、経済活動が止まってしまっている街には、何か祭りがないとコミュニティが維持しにくくなってくるのかもしれないなぁ…と思いつつ。

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石巻駅前の観光センター前で石巻焼きそばをつくっていたので買ってmgmgしていたら、明るいおじさんが「俺ね、今度の仙台のマラソンでも出店やるから来てよー」と仙台から来たカップル(そう、カップルの観光客がすごく多かった)に話してる。mgmgしながら聴いていると、続けて「…俺、これ本業じゃないんだけどさ、他にやることなくなっちゃったからさー」と。mgmg......

中学校の時、修学旅行で広島に行ったけど、語り部さんの広島原爆の話を聴きながら、「毎日毎日、この話を繰り返すことでこの人の心は傷つかないんだろうか、忘れたい気持ちと、忘れられたくない気持ちと、どっちのほうが大きんだろう」という疑問をずっと持っていたのだけど、そういう次元の問題ではなかったのかも。さっき見ていたテレビ番組でも被災地を観光(といっていいのだろうか?)案内している被災者が「継続的に来てもらえるコンテンツを用意しないといけない」とインタビューに答えていて、「コンテンツ」という言葉を使っていることに衝撃を受けた。でも、コンテンツの力で眼差しが集まって状況が改善するのなら、という、こういう自体ならではの割り切り方なのか。このあたりはマスコミの功罪と言える部分ばかりをこれまで気にしていたのだけど、なにかしら「役割」がないと人間は生きていけない、という現実もあったり、余計に複雑な心境になった。

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まんが研究を学生時代にしていたので、わりとあちこちの「マンガでまちおこし」みたいなところには行っていたのだけど、石ノ森萬画館は来る機会がなく、残念ながら被災前の様子を僕はよく知りません。萬の字がここに戻ったら、また来よう。復旧のための予算が市議会でついたとのこと。水産資源のほかに観光資源を育ててきた石巻の戦略は正しかったと思う。

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藤岡弘、さんをはじめ、いろいろとサインが。宮川賢、と読めるサインも隣の柱に。

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萬画館の周囲は金属の手すりや柱も全部ひん曲がってる。津波のパワーって本当に恐ろしい。

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避難所になっていた学校。石碑が立っていた。一階部分はベニヤ板で仮囲いされているのだけど、

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先に復旧したらしい体育館は、選挙の掲示板に使う合板が使われていた。こんな状況で去年選挙が実施されたのは、今思うと本当にわけがわからない。

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テレビでも何度も映された、海沿いから流されてきた巨大タンク。タクシーで観光客をここに案内しているドライバーさんもいた。この周囲の幹線道路は完全復旧していて、タンクだけが中央分離帯にぽつんと残っていました。このすぐ裏はがれき置き場で、莫大な量が野積みになっています。漁業用の網、プラスチックの桶などは整然とすでに分類されて積まれていて、それ以外の発火する可能性のある瓦礫は、ガス抜きのためのパイプが無数に突き刺した状態で山に。どれも限りある私有地で、日常生活のすぐとなり。公共事業としてがれき受け入れを民間企業に委託した形にしてあるみたいだったけど、精神的な負担感は本当に大きいな、と思う。

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漁港の周辺は本当に根こそぎ建物がなくなっていて、ぼくが食事をするつもりだった寿司屋もなくなっていました。そんな中にぽつんと立つ電波塔。携帯電話の中継局とおもわれるけど、きっちり蓄電池もついていて、この一帯をこれで広域カバーして復旧したっぽい。確かに石巻にいる間、一度も携帯の電波は圏外にならなかった。震災直後、海底ケーブルまで切れてしまって東京にいた僕らも一部のサービスが停止したり、少なくない影響を受けたのだけど、その後のとてつもないスピードでの復旧を思い出した。しかしこの周囲がこの街の最も賑わいのある場所だったはずなんだけど、いまは誰もいない。産業と雇用を失った街を、ここにもう一度復活させるには、途方も無い資本が必要だな…。

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ここにも津波到達地点標識。この高さまで津波がくることを想像して避難するのは本当に難しい。

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どうしても石巻では海産物が食べたかったので、竹ノ浦さんで海鮮丼を。うまいです。

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仮設商店街は中小機構が助成しているみたい。駐車場だったところにプレハブテナントを並べて、しっかりとしたトイレもあった(かなりきれい)。日本企業のほとんどは中小企業。復興庁の話題は日々ニュースで見るけど、中小企業庁とか中小機構の話は殆ど目にしない気がする。なんでだろう…?

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バスで仙台に戻る。仙台でもう一度牛たんを食べ(よく考えると牛たんそのものは輸入肉なのでどうして仙台名物なのかよくわからなかったりするのだけど)、ひたすら東北の物を買いまくって新幹線へ。

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帰りははやぶさグランクラスで。JALのクラスJよりもハイグレード、ビジネスクラスまではいかない、ぐらいのシートで、リクライニングはかなり良い感じ。コーヒー飲もうとドヤ顔でVIEWカードの新幹線コーヒー割引券を提示したら、「そちらのクーポンもご利用頂けますが、グランクラスではお飲み物と軽食は無料でご用意しております」といわれる。「そちらもご利用頂けますが…」と前置きしたアテンダントさんの機転でちょっと救われたけど、恥ずかしい思いをした。軽食は和軽食と洋軽食が用意されていて、和のほうは日本酒(これも無料)のアテになりそうなものがいくつか入れてあって良い感じ。コンセントもついているので、ケータイを充電しながら津田マガを読んだり、行けなかったニコニコ超会議のことを調べているうちにあっという間に関東へ。途中駅、大宮しか止まらないからね…。すんごい早い。快適だったんだけど、食事中に「トイレはセンサー式の水洗です、SOSボタンを押しても水は出ません」というアナウンスが何度も流れたのは何だったんだろう…。ほかにも「自由席からグランクラスのご見学はご遠慮ください」とか、ものすごく長い規定文のアナウンスを、たどたどしく読み上げる車掌さんに同情しているうちに東京についた。

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JR東日本の「つなげよう日本」のCM、よかったよね…。



一泊二日でも行ける東北。GW後半に行かれる方、お気をつけて。歩きやすい靴で!

初音ミクとアイドルのパブリシティ権


初音ミクGoogle CM曲がiTunesで一位を獲得(iTunes)していますが、これまでの広告業界と音楽業界の共存関係の常識を大きく覆す事態がいよいよ起こるんじゃないかと思ってメモ。

著作権管理とVOCALOID MUSIC PUBLISHING

JASRACのJ-WID(http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/)でアーティスト名の後方一致「初音ミク」で検索する*1と、一致楽曲が234曲。

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エグジットチューンズがJASRACに部分信託をしている例。演奏・放送・貸与・通信カラオケはJASRACと契約すれば自動ライセンスされる方式。主に商業CDに収録されるとこの形式になるのではないかと思われる。元放送局にいた僕からすると、放送で楽曲を紹介するには、この形式になっているととてもありがたい形式。(オンエア一回ごとに直接権利者に連絡をとる、というのは正直現実的ではないので…)。

一方、去年ヤマハから業務委託を受ける形で、CGM専門の音楽出版社も設立されました。

自主制作コンテンツ出版管理機構(VMP)の管理楽曲リストはまだ整備されていないようなのですが、この説明を見ると、

当機構においてコンテンツ管理は3パターンです。

取次
クリエイター自身による個人(自己)管理であり、VMPは「取次」のみ行います。利用者からの利用申請のメールは、クリエイターに対して“転送”となります。条件検討または快諾の場合はクリエイターと利用者の間でのやり取りですが、拒絶の場合は当機構が代わることも可能です。

VMP管理
曲毎に、支分権・利用形態についての管理状態を予め設定し、その範囲においては、自動ライセンスとします。利用者は、申請スキームから申請することとなります。
ただし、「貸与権」「放送・有線放送」「業務用通信カラオケ」については当機構では管理することができません。

JASRAC部分管理
曲毎に、支分権・利用形態のうちJASRAC管理が適当な区分である「演奏権等」「貸与権」「放送・有線放送」「業務用通信カラオケ」についての部分信託となり、自動ライセンスとなります。
その他の支分権・利用形態につきましてはVMP管理となります。

JASRACに信託する部分以外については、基本的に同人無償利用の原則となります。

http://www.ugc-pub.com/?page_id=10

と、3パターンに分類。現時点で初音ミク楽曲のマネタイズはカラオケが先行しているから、JASRAC部分管理を選ぶ人が多いのかしら。二次利用がしにくくなるのでVMP管理を選ぶと、放送も通カラもこのスキームで処理できなくなっちゃうんですね。

歌唱印税

一方、忘れられがちですが、JASRACが管理しているのは作曲・作詞・編曲の権利だけで、「歌っている本人」に対する著作隣接権の分配は、CPRAをはじめとする各実演家団体を通じて分配されています。CPRAの利用料規定はこちら。

各レコード会社はCDの売上に対する印税と別に、アーティストに二次利用についてもこれを分配する原資とできるわけですが、印税契約している場合と買い切りになっている場合があります(およげ!たいやきくんを歌った本人は全然お金が入らなかった話が有名ですね)。

最近CGMでコピーを広めてライブとかでマネタイズすればアーティストは儲けられる、みたいな議論が活発ですが、著作権と実演家の著作隣接権をごっちゃにした話が多いような気がします。著作物は画期的に複製が容易になりましたが、実演って労働なわけで、DTMのようにスタジオを使わなくてもマスタリングできる楽曲と、生演奏は、ちょっと区別して考えたほうがいいような気がする。このあたりは追々考えるとして、本題に戻ります。

アイドル産業の未来

アイドルは著作隣接権者としての実演家収入だけで食べているわけではありません。アイドルは同時に本人の知名度を積み重ねることで肖像権の財産的価値を高めて、事務所を通じてそれをマネタイズしています。むしろこっちのほうが儲かる。肖像権というとプライバシーのほうが一般市民にはわかりやすいので、それを食い扶持にしている人たちは、わざとちょっとそのへんをごちゃ混ぜにして啓蒙するようなサイトを作っていたりします。

特にプロモーション、CMで楽曲を使う場合、JASRACに利用料を払うだけでなく、原盤権者から特に許諾を受ける必要があります。
楽曲そのもののプロモーションになるという考えで(肖像権の財産的価値を高める目的で)バーター(つまりタダ)で使わせる場合と、逆にアイドルの持っている経済的価値を商品に提供するということでCM契約金を払ってもらう場合があるわけです。後者のほうをイメージする人が多いはずですが、前者をベースに(聞こえよく「タイアップ」と呼んで)、CM利用以外の稼働(イベントへの出演とか、コラボ商品の開発によるギャランティーの支払いとか)についてものすごく細かい条件を決め合って、ほぼ共同事業のような形になっているパターンのほうが、むしろ多いはず。

AKB48の場合は、AKB48というブランド全体の経済的価値をAKB48劇場での草の根活動とメディア露出で高めつつ(この経過においては意外なほど薄給)、個々のメンバーがCM出演やプロモーション契約を単体で獲得した際に、そのブランド価値をやっとマネタイズできる、というビジネスモデルが成立しています。
従来のレコード会社は、稼ぎ頭のアイドルの収益を、まだ売れていないアイドルの知名度の向上、タイアップの獲得のためにスタッフが動き、お金をつかっていく、という再投資の仕組みを担っていたはずなのです。僕が以前所属していたラジオ業界も、その再投資の仕組みのなかで一緒に動いていたのですが、AKB48は現在の地位を獲得してから、突然メディアに登場してきた印象が強いのです。アイドルの「育成段階」に、メディアはもはや関わらなくなっている気がするのです。

アイドルの供給過剰、みたいなことが言われて久しいですが、この不毛で当たり外れの激しい再投資の仕組みを乗り越えて、「アイドルは偶像なんだしバーチャルで作っちゃえばプロモーション稼働も無限にできるし酷使して儲ければいいじゃん!」と、タレント事務所の生き残り戦略の1つとして、バーチャルネットアイドルを作って売りだそうという歴史は何度もありました。

1995年に生まれた伊達杏子はその初代だったと思われますが、Wikipediaにまとまっている通り、当時の技術的限界ではあまりにも高コストだった。

そんな中、「そのソーシャル・キャピタルは誰のものでもない」が「一私企業の開発した所有物でもある」という矛盾性を持った初音ミクが、CGMの特性によって低コストで拡大再生産を続け、いよいよ肖像権に経済的な大きな価値を持ち始めたのは、いよいよ21世紀はじまったな、という事態です。

CM出演、パブリシティ権初音ミク

初音ミクの今回のGoogle CM出演は本当に大規模に露出されていて、ぼくはGoogleにターゲティングされているのか、一日に何十回もバナー広告を見るし、TVCMも評判がいいのか、めちゃくちゃ出稿されています。

北米トヨタでもCM起用されているし、ニコニコ動画で育ったアイドルが、競合であるGoogleに活用され、さらにそのGoogleの競合であるiTunesで一位を取ったというのは目覚しい。

しかしふと疑問が起こるのは、このCM起用に関する契約関係。クリプトンフューチャーメディアは果たしてパブリシティ利用としているのか、ライセンス費を支払ってもらっているのか。途中で使われているCGMクリエイターの皆さんは最後にクレジットが入っているのでGoogleないし広告会社から接触があったと思われますが、対価は支払われたのか。楽曲はこのCM用に書き下ろしたもののようですが、JASRACのDBにはまだ出て来ませんでした。いろいろと不思議なところの多いCMです。

今回はGoogleという親和性の高い企業からの活用だったのでハレーションは起きていないように感じますが、のまネコ問題 - Wikipediaを思い起こすように、「俺達の◯◯が…!」的な感情が起こったりする背景は、ここまで書いてきたように、その偶像(アイドル)が持つ肖像権の財産権的性質(パブリシティ権)が、CGMのもつ特性の中で育まれ、その育成過程にコミットしていない企業がその経済的効果だけを換金していくことに対する不満があるのだと思っています。

ほとんどの業界において、今後知名度というのはネットを通じて得られるものになるのでしょうから、タレント事務所はほんとに大変になるだろうなぁ、と他人ごとのように感じますが、日本的アイドルは「育てるのにお金のかかる」世界なので、このお家芸を生き残らせるために、音楽業界とタレント事務所、マスコミ業界はどう対応していくのか、見所です。

PS VitaとPodcast

前回のエントリの続き。

あまり知られていないように思うのですが、PSPにはPodcastRSSチャンネル、とか以前ソニーは呼んでいましたが)の購読機能がついています。

筆者がウェブまわりを昨年夏まで担当していたTOKYO FMでは、PSP公式対応のPodcastサイトをわざわざ用意していました。需要あるの?とあなどるなかれ、SCEの公式ポータルからリンクされていたこともあり、それなりのダウンロード数があったのです。

TFMのPodcastはちょっと変態的なぐらいにマルチデバイス対応を推進していて、JFNの基幹局ということもあり、ラジオとウェブの連携に必要なメタデータの技術仕様の策定にも積極的です。

しかし、なぜかPS VitaではこのPodcast機能が外されてしまったのでした。将来的にアプリケーションが配布される可能性はあると思いますが、Playstation Storeでのビデオ販売、torneと連携しての書き出し機能、ニコニコ公式アプリの配布(近々生放送の配信もできるようになるらしい!)など、メディアプレイヤー系の機能が充実している中で、なぜかPodcastだけが落とされてしまった。

Podcastがビジネスにならなかったと言われて久しいですし、iTunes StoreのPodcastカテゴリぐらいしかまともなプロモーションメディアがないのも事実なのですが、個人的にはPodcastの仕組みは今でも非常に重要だと思っています。

Podcastが重要な役割を果たしたのは、他ならぬ東日本大震災でした。

震災を受けてJFN系列で放送が始まった政府広報番組「震災情報 官邸発」。当初はJFN系FM局での放送だったのが、一気に被災地AM各局、各地のコミュニティFM・災害臨時局にもネットワークが広がりました。当然、系列を超えての番組配信には通常の配信機器が使えるはずもなく、一部のステーションにはWeb経由で取り急ぎの配信網が構築されました。
このとき、同時にPodcast配信も緊急に立ち上げ、SCEApple US本社それぞれのご好意で、PSPブラウザトップ、iTunes Storeトップの両方から一斉にダウンロードリンクが貼られたのでした。両社とも連絡を入れ次第、かなりのスピードで対応してくださり、いまでも感謝しきれない思いです。

震災情報 官邸発、PodcastはPSPでもお聞きいただけます。ソニーコンピュータエンタテイメントのご協力で、PSPポータ... on Twitpic

刻々と変わる情勢の中、多忙を極める枝野官房長官(当時)自らが直接国民に向けて毎日収録して放送する、という、極めて例外的で緊張を強いられる番組でしたが、優秀なスタッフに支えられて、連日、系列/非系列局/radikoをはじめとするサイマルキャスト/Podcast/政府広報オンラインと、ありったけの手段で配信し続けられたのは、ラジオマン冥利に尽きる仕事でした。

ところで、災害時におけるPodcastの強みは、「蓄積型で一度ダウンロードすれば繰り返し聴くことができること」「いつでも全編をダウンロードできること」です。被災地ではテレビやラジオは基本的に生放送をつけっぱなしですから「大事なお知らせを繰り返して伝える」ことがなかなかできません(のちにデジタルサイネージを導入した自治体もありました)。政府がラジオ番組と平行して展開した壁新聞は、輸送上の課題と、多人数が一斉に見れない、視覚障碍者に届かない、という課題がありました。ネットワークさえきていれば、Podcastで配信して、その端末を拡声器なり、館内放送なりで何度でも聴かせることができる、というメリットがあります。
スマートフォンでも同じ事はできますが、携帯電話の限りあるバッテリーは誰だって、被災直後は他の用途に使いたいもの。PS Vitaのような、大容量のバッテリーを積んでいて、しかも通信機能が搭載されているけど、被災直後には用途が薄いデバイスに、Podcastをダウンロードする役割を担って欲しいのです。

いざ災害が発生したときに、運良く電源状態のいい携帯電話やラジオを持ち歩いているとは限りません。一つでも多く、いざというときに情報を届けるデバイスを確保するために、PS Vitaには近いうちにPodcast機能が搭載されることを、願っています。

PS Vitaと青少年アクセス制限問題

PS Vitaを購入して、ご多分に漏れずフリーズしたりして色々四苦八苦していますが、今回書きたいのはゲームの話ではなくて、インターネット機能の話です。

Vitaフィルタリングのしくみ

3Gモデルのdocomo SIMがフィルタリングサービスに原則加入になっていて、ほとんどの掲示板・コミュニティ機能のあるサイトにアクセス出来ない件については、説明があまりにも足りないこともあって大混乱を招いていたように見受けましたが、私自身はWi-Fiモデルを購入していたので、以下誤りがあったらご指摘いただけると幸いです。

あちこちの解説にあるとおり、このフィルタリングは法律に基づくdocomo側の設定によるもので、購入時に年齢確認ができていないので原則加入ということになります。Vitaが導入を推奨している、Wi-Fi/3Gともに利用できるデバイス側のフィルタリングソフト(http://www.jp.playstation.com/psn/filtering/)とは無関係です。しかしdocomoのページ、説明わかりにくい。

このフィルタリングはspモードフィルタとおそらく同等のもので、「docomoと無関係な第三者企業が機械的にサイトを系統分類したデータに基づいて」「不法、主張、アダルト、出会い、グロテスク、セキュリティ、ギャンブル、コミュニケーション、成人嗜好、オカルト」カテゴリをNGに+「コミュニティサイトのうち、EMA認定がとれているものを除きすべてNG」とするものです。

この「コミュニティサイト」という定義が非常に面倒で、通信の内容は秘密を守らなければならないので、形式的に、掲示板的な投稿機能があるものはすべてひっかかってしまいます。ブログもだめ。というわけで、大手ニュースサイトも一部を除いて一斉にはじかれてしまい、ちょっとした騒ぎになった次第です。

…あれ、そういえばPSNのフレンド機能とかみんいつとかVita標準搭載のFB連携機能とかはコミュニティサービスじゃないの?というのはちょっと気になりますが…。

EMAの役割

ただ、それではあまりにもアレなので、コンテンツ業界の自助努力でEMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)という第三者機関がつくられていて、ここに「サイトの運用監視をしっかりやっている」と査定をしてもらって、各キャリアはホワイトリストとして認定サイトを個別に穴あけする、という作業をしています(ガラケー、スマフォ、PS Vitaで共通)。私自身、前職で運営していた中高生向けの深夜ラジオ番組連動のWebサービスが突然フィルタリング対象となって猛烈なクレームを受けたところから突貫でEMAを取得するという作業をしたことがあって、そのときに、この制度の仕組みの「いまできる最善の策だけど限界はあるよね」感にずっと悩まされてきました。この審査はわりとコストもかかり(二重にサイトを監視することになるので当然であって、誰か天下りで儲けている人がいるわけではないです)、いまだに32サイトしか取得できていません。…たった32サイト!認定通過率は66%。

いちおう、この32サイトののべ会員数は1億人を超え、業界内のカバー率はそれなり、ということになっていますが、正直言って、この32サイトだけが見えるケータイってどうなの?とは私も思っています。mixiGREEMobage、Hangameはかなりのコストを割いてEMA取得をしていますが、当然こんな日本のローカルルールにTwitterFacebookが対応してくれるはずもなく。とはいえこれしか今のところ、警察や一部の「子どもにケータイ持たせなきゃいい」的な条例を制定している地方自治体の規制強化の動きに抵抗する方法はこれしかないので、中高生のケータイからアクセス出来ない、ということがどれだけの営業損失になるか、ということを説いて回っているのですが、なかなか理解が広がらない。

今回、ゲーム機という非常にわかりやすい「子どもがもつ」というシーンがわかりやすいデバイスに、はじめて標準でSIMが載ったことで(Wi-Fiだけだとこういう話にはならない)、一層このあたりの議論が深まればいいなぁ、と願っているのですが、当事者であるdocomoとSCEがあまりこの件について細かい情報提供をしている気配がないので、やっぱり根本的な解決のないままになってしまうのかもしれません。
ちなみにSoftBank iPhoneの場合、孫さんがうめけん君を念頭において「中高生がツイッターを使えないとかありえない」と一昨年あたり吠えていたのがおそらくきっかけとなって、「ウェブ利用制限(弱)」という曖昧なサービスをひねり出していて、TwitterFacebookSoftBankがお墨付きを与えたそれらの連携アプリは「例外」として使えるようにする、という強引な荒業を繰り出しています。

逃げずに「厨房の砂場」をつくるしかない

…だいぶ頭痛い感じの現状の整理をした所で話を戻すと、ポケモン以来携帯ゲーム機に与えられた「子ども同士のコミュニケーションの手段」という役割は、そんなもん使わないと友だちがつくれないのか!そのへん走りまわって草野球でもやってろ!とか言っている場合ではなく、マンガも深夜ラジオもクラスの共通の話題ではなくなってしまった今、わりともうしばらくの間は、彼らをつなぐ役割を担い続けるんじゃないかと思っています。

子どもの遊び道具が完全にスマホに移行したら再び混沌の時代がやってくるのだろうけど…。比較的コントロールがしやすいゲーム機というデバイスにインターネットが入ってきたいまのタイミングで、うまいデザインをしてあげれば、子どもたちに「大怪我しないて程度にヤケドしてネットの安全な利用方法を覚える」砂場遊びの場が作ってあげられると思うんですが。

いきなりPCとケータイがネットにつながった酒鬼薔薇聖斗世代の私達(筆者は1983年生まれです)は、おっかなびっくりネットデビューした時しながら、厨房とか2chで罵られつつ、痛い思いをしながらネットのいろんなリスクやマナーを学んできました。けれども当時に比べて、ネットはずっと公共性が高まって炎上リスクも増しています。いきなりTwitterとか使い始める小中学生を見ていると、高校の情報科教員免許を取ったりしている私は本当にハラハラするので、なんとかしてあげたい、と悩む日々です。


EMAの件だけでだいぶ長々書いてしまったので、ネットデバイスとしてのVitaに関する話題としてPodcastについて書きたいとおもったのが本題だったのですが、それは別の日に改めて。